この章の扱い方
この章は、人物と組織について、公的な役職と公表された経済的利害だけを記します。ある人物や組織に複数の役割があることと、不当な影響があったこととは別の事柄です。確かめるべきなのは、利益相反を管理する手続きが存在し、機能していたかどうかです。この章に評価の語は置かず、事実の並びと、確認できていない点を記します。
要点
- 20GW を記した第 8 回(2024 年 11 月 26 日)の委員 8 名には、日本政策投資銀行の常務執行役員が含まれる。同行は翌月 26 日に、戦略の最大の採択先である積水化学工業の事業会社へ 14% 出資することを決めたA · EV-014, EV-016
- 委員の一人は 2026 年、製造企業が幹事を務める業界団体(JPSC)の理事と、製造企業の役員が専務理事を務める技術研究組合(RATO)の理事長に就き、そのまま第 10 回の委員を務めているA · EV-015, EV-017, EV-018
- 委員 3 名が、戦略の目標を前提とする NEDO 補助事業の 2025 年度採択審査で委員長または委員を務めた。NEDO 側には利害関係者を排除する公開の手続きがある。協議会側にそれに当たる手続きは公開資料に無いA · EV-034, EV-035, EV-036
- 協議メンバーは 174 → 249 → 310 と増え、補助金の採択企業(積水化学、アイシン、エネコート、パナソニック HD、リコー、カネカ、長州産業、東芝)はいずれも協議メンバーであるA · EV-013〜015
- 委員の選任基準、任期、交代理由、利益相反申告の有無は公開されていないA · CL-018
1. 委員 8 名と事務局
第 1 回から第 8 回までの委員は 8 名で、座長は髙村ゆかり氏(東京大学)でしたA · EV-013, EV-014。
| 氏名(名簿の表記) | 所属(名簿の表記) | 第 1〜8 回 | 第 10 回(2026-05) |
|---|---|---|---|
| 髙村 ゆかり | 東京大学 未来ビジョン研究センター 教授 | 座長 | 退任 |
| 植田 穣(※) | 東京理科大学 教授 | 委員 | 座長 |
| 秋元 圭吾 | 地球環境産業技術研究機構 | 委員 | 退任 |
| 大橋 弘 | 東京大学大学院 経済学研究科 教授 | 委員 | 退任 |
| 清家 剛 | 東京大学大学院 新領域創成科学研究科 教授 | 委員 | 委員 |
| 瀬川 浩司 | 東京大学 | 委員 | 委員 |
| 長島 聡 | きづきアーキテクト株式会社 代表取締役 | 委員 | 委員 |
| 原田 文代 | 株式会社日本政策投資銀行 常務執行役員 | 委員 | 委員 |
| 飛田 博美 | 一般財団法人電気安全環境研究所(JET) | — | 委員(新任) |
| 圓尾 雅則 | SMBC 日興証券株式会社 | — | 委員(新任) |
※ 名簿は「植田 穣」と表記する。東京理科大学の研究者情報と NEDO の審査委員名簿は「植田 譲」(工学部電気工学科 教授、太陽光発電システム)であり、同一人物とみられるB · CL-022。本章では以下、名簿の表記に従う。
事務局は資源エネルギー庁 省エネルギー・新エネルギー部で、第 10 回名簿には部長、政策課長、新エネルギー課長の 3 名が記されていますA · EV-015。新エネルギー課は、戦略の需要推計を委託した部署であり、GX サプライチェーン構築支援事業と GI 基金(次世代型太陽電池)の所管部局でもあります。目標を設定する会議の事務局と、目標を前提とする補助金の所管が同じ課にあることは、行政組織として珍しいことではありません。確認点は、採択審査が所管課から分離されているかどうかですA · COI-008。
2026 年 5 月の第 10 回で、座長を含む 3 名が退任し 2 名が加わりました。退任・就任の理由は公表されていませんA · CL-018。
2. 協議メンバー
協議メンバー(企業・団体・自治体)は、第 1 回 174、第 8 回 249、第 10 回 310 と増えましたA · EV-013〜015。自治体が 137 → 162 → 182、企業・団体が 37 → 87 → 128 です。協議メンバーには議決権はなく、発表と意見表明の場に参加する形とみられますC · COI-007。
ペロブスカイト太陽電池のメーカーは第 1 回から協議メンバーで、第 2 回では 6 社(アイシン、エネコート、カネカ、積水化学、東芝・東芝 ES、パナソニック HD)が発表しています。発電コスト検証ワーキンググループが 2040 年の参考値を求めるために用いた「メーカー 6 社のコスト見通し」も、この 6 社の見通しですA · EV-047。目標の前提となる数値を提供した企業が、同時に目標の下で支援を受ける企業です。これは官民協議会という形式の性質であり、それ自体が問題なのではありません。問題になり得るのは、提供された数値を第三者が確かめる仕組みがあるかどうかです。
3. 補助金の採択先
2024 年 12 月から 2026 年 10 月までに公表された、ペロブスカイト太陽電池向けの主な採択は次のとおりです。金額は採択時の上限や交付申請額で、交付決定額・実支出額は公表されていませんA · CL-014。
| 企業 | 制度 | 公表日 | 金額(億円) | 協議メンバー | 業界団体(JPSC)の役員 |
|---|---|---|---|---|---|
| 積水化学工業 | GXSC 令和 6 年度 | 2024-12-25 | 補助金 1,572.5(経費 3,145) | 第 1 回〜 | 子会社の役員が専務理事 |
| 積水化学・東京電力 HD | NEDO 実証 | 2024-09-20 | 支援 約 125 | 第 1 回〜 | 同上 |
| リコー、パナソニック HD、エネコート | NEDO 実証 | 2025-09-10 | 3 件で 378 の内数 | 第 8 回〜/第 1 回〜 | 各社 理事 |
| 長州産業、カネカ | NEDO タンデム実証 | 2026-02-06 | 2 社で上限 153.3 | 第 10 回〜/第 1 回〜 | — |
| 三星ダイヤモンド工業 | GXSC 令和 7 年度 | 2026-02 | 交付申請額 3.4 | 第 10 回〜 | — |
| アイシン | NEDO 単接合実証 | 2026-08-06 | 支援 約 98〜113 | 第 1 回〜 | 理事 |
| リコー | GXSC 令和 7 年度補正 | 2026-10-27 | 交付申請額 98.6(経費 295.8) | 第 8 回〜 | 理事 |
| 長州産業 | GXSC 令和 7 年度補正 | 2026-10-27 | 交付申請額 37.9(経費 75.9) | 第 10 回〜 | — |
出典: 公的支援の台帳A · EV-016, EV-022〜024, EV-032, EV-033。
採択額を単純に足すと約 2,000 億円を超えますが、制度ごとに「上限」「支援見込み」「交付申請額」と金額の種別が違い、実際に支出された額は別です。チカモチ純薬は令和 7 年度 GXSC に採択された後、2026 年 8 月に「採択条件に基づき」取り消されています。理由は公表されていませんA · EV-022。
4. 役割の重なり
4-1. 委員の所属機関と採択先への出資
日本政策投資銀行の常務執行役員は第 1 回から委員です。戦略が 11 月 28 日に公表され、12 月 25 日に積水化学工業の GXSC 採択が公表され、12 月 26 日に積水化学の取締役会が事業会社の設立と同行の 14% 出資を決議しました。事業会社「積水ソーラーフィルム」は 2025 年 1 月 6 日に設立されていますA · EV-016。
出資は政策投資銀行としての審査を経た判断であり、委員の職務との因果関係を示す資料はありません。協議会の資料に、この件についての申告や回避手続きの記載もありませんA · COI-001。
4-2. 委員と業界団体・研究組合
瀬川浩司氏(東京大学)は第 1 回からの委員です。2026 年 4 月 28 日、有機系太陽電池技術研究組合(RATO)の理事会で理事長に選任されました。同組合の専務理事は積水ソーラーフィルムの森田健晴氏ですA · EV-017。2026 年 5 月 15 日に設立された日本ペロブスカイト太陽電池普及促進協議会(JPSC)では理事を務めています。JPSC の幹事企業はアイシン、エネコート、積水ソーラーフィルム、パナソニック HD、リコーの 5 社で、専務理事は同じく森田氏ですA · EV-018。5 日後の第 10 回協議会の名簿には、瀬川氏が委員として、JPSC が協議メンバーとして載っており、議事次第では JPSC が業界団体の設立について発表していますA · EV-015, EV-055。
研究分野の第一人者が研究組合の長を務めることは通例です。確認点は、政策を審議する委員が、その政策の受益企業で構成される団体の役員を兼ねる場合の申告の仕組みがあるかどうかですA · COI-002, COI-003。
4-3. 性能評価機関の職員と委員
環境省の導入支援事業は、電気安全環境研究所(JET)の性能評価を受けたフィルム型製品だけを補助対象にしていますA · EV-021。JET は第 1 回から協議メンバーで、2026 年 5 月から同研究所の職員が委員に加わりましたA · EV-015。技術的中立機関としての参加という説明は可能です。評価手数料の額、評価を受けた製品の一覧は公表されていませんA · COI-004。
4-4. 協議会委員と補助金の採択審査
NEDO は 2025 年 9 月、2025 年度の採択審査委員の氏名を公表しました。協議会の委員 3 名がそこに含まれますA · EV-034, EV-035。
| 氏名 | 協議会 | NEDO 採択審査(2025 年度) | 採択先 |
|---|---|---|---|
| 瀬川 浩司 | 委員 | 太陽光発電導入拡大等技術開発事業 研究開発項目Ⅰ「次世代型太陽電池技術開発」採択審査委員会 委員長 | カネカ、東芝 ES・京セラ、PXP |
| 飛田 博美 | 委員(2026-05〜) | GI 基金 次世代型太陽電池実証事業 採択審査委員会 委員。技術開発事業 項目Ⅴ 委員 | リコー、パナソニック HD、エネコート |
| 植田 穣(譲) | 委員 → 座長 | GI 基金 実証事業「経営者のコミットメント審査」書面審査委員。技術開発事業 項目Ⅵ 委員長 | 同上 |
NEDO の公募要領は、採択審査委員の選定で利害関係者を排除し、委員本人にも事前確認を求める手続きを明記しています。審査の経過は非公開ですA · EV-036。補助金の審査側には、少なくとも文書化された利益相反手続きがあります。
一方、協議会については、委員の選任基準、任期、利益相反の申告を定めた文書が公開されていません。運営要領は第 1 回の資料 1 に含まれますが、該当する条項はありませんA · EV-037, CL-011。
5. 需要推計を行った受託者
20GW の需要推計を行ったボストン・コンサルティング・グループは協議メンバーではなく、第 3 回・第 5 回で発表しました(資料は非公開)。報告書の仕様書は、新エネルギー課と 2 週間に 1 回の打ち合わせを行うこと、約 20 者へのヒアリングと約 500 件のアンケートを行うことを定めていますA · EV-010。受託者が民間の顧客としてどの企業と関係を持つかは、コンサルティング業の性質上、公開されません。委託仕様に利益相反の条項があるかどうかは確認できていませんB · COI-006。
6. ここまでで分かったこと、分からないこと
分かったこと
- 目標を審議した委員の所属機関が、目標公表の翌月に最大採択先の事業会社へ出資した
- 委員 1 名が、受益企業で構成される業界団体の理事と研究組合の理事長を兼ねたまま委員を続けている
- 委員 3 名が、目標を前提とする補助事業の採択審査の委員長・委員を務めた
- 補助金の審査側には文書化された利益相反手続きがあり、協議会側には公開されたものが無い
- 採択額の合計は約 2,000 億円を超えるが、交付決定額と実支出額は公表されていない
分からないこと(確認中)
- 委員の選任理由、任期、2026 年の交代理由
- 委員・協議メンバーの利益相反申告の有無と内容
- 委託調査の仕様書に利益相反条項があるか
- 交付決定額、実支出額、チカモチ純薬の取消理由
これらは開示請求 02(協議会の運営・委員選任)、03(委員の利害関係管理)、05(交付・実績)の対象です。回答が得られたものから、この章を更新します。本章で名前を挙げた方・組織からの反論は、同じ分量で掲載します。
出典
| 記号 | 資料 |
|---|---|
| EV-013, 014, 015 | 官民協議会 参加者名簿 第 1 回(2024-05-29)、第 8 回(2024-11-26)、第 10 回(2026-05-20) |
| EV-016 | 積水化学工業 プレスリリース「GX サプライチェーン構築支援事業の採択および事業会社設立について」(2024-12-26) |
| EV-017, 018 | RATO「理事長交代のお知らせ」(2026-07-01)、JPSC「JPSC について」 |
| EV-021 | 環境省「政府部門におけるペロブスカイト太陽電池の率先導入について」導入支援事業要件(2026-06-18) |
| EV-022, 023, 024, 032, 033 | GXSC 採択一覧(令和 7 年度 事業Ⅳ、令和 7 年度補正 事業Ⅱ)、NEDO ニュースリリース(2026-02-06、08-06) |
| EV-034, 035, 036 | NEDO 2025 年度 採択審査委員一覧(技術開発事業、GI 基金実証事業)、公募要領「利害関係の確認」 |
| EV-010 | 令和 6 年度 次世代型太陽電池の需要等に関する調査 仕様書(報告書所収) |
| EV-037, 055 | 第 1 回 資料 1(運営要領)、第 10 回 議事要旨 |
委員・協議メンバーの変遷の全表は付属資料 council_members_and_roles.mdに、利害の重なりの一覧は証拠台帳と一次資料一覧の利益相反台帳に掲載しています。
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推奨する引用形式
益田周防海(2026)「第 3 章 誰が決め、誰が受け取ったか」株式会社I-S3、2026-10-29 公開、https://www.i-s3.com/perovskite-policy-investigation-ch3-who-decided-who-received.html