ペロブスカイト産業政策 ― 量産投資支援か、技術中立の成果目標か

― 「一体で支えれば勝てる」前提の算数を、戦略の原本で ―

三菱総合研究所の伊藤陽人氏・井上智裕氏のコラム「ペロブスカイト太陽電池の未来と日本企業の勝ち筋は?」(2026年3月16日)は、国の支援の下で技術研究組合・共同出資の量産体制・官民ファンド・官民一体の市場形成を組むべきだと提案しています。I-S3 は別稿で、導入量は技術中立の成果目標から出てくる結果に置くべきだと書きました。両者を目的の違いから分け、戦略とワーキンググループの原本の値で確かめます。

執筆: 益田 周防海(Suomi Masuda)/株式会社I-S3 | 公開: 2026年10月16日 | 第5章 | 取り上げる文章: 三菱総合研究所 伊藤陽人氏・井上智裕氏 コラム(2026-03-16)

検証 意見と立場 序章・終章へ

1. 取り上げる文章

コラム三菱総合研究所 ナレッジ・コラム「ペロブスカイト太陽電池の未来と日本企業の勝ち筋は?『海外進出』と『チームジャパン』での取り組みを」伊藤陽人氏・井上智裕氏(GX本部、掲載時の表記)、2026年3月16日
原本経済産業省「次世代型太陽電池戦略」(2024年11月28日)、発電コスト検証ワーキンググループ「発電コスト検証に関する取りまとめ(最終版)」(2025年2月6日)
I-S3 側の公開文ペロブスカイトを、一度忘れよう。(2026年9月2日。政府広報と報道の論法を検証した記事で、このコラムには触れていません)

2. コラムの主張と、同意できる点

コラムは、次世代型太陽電池戦略の需要曲線とコスト見通しを再計算し、2040年20GWのうち屋根設置が95%を占め、屋根ではシリコンと競合するため「耐荷重が低くシリコンを置けない場合を除けば導入は限定的」と書いています。コスト自立(10円/kWh)はベースで2050年頃、技術革新シナリオで2040年前後。日本の導入量は世界の約1%なので習熟には海外販売が要る。シリコンで負けたのは技術でなく産業戦略(導入目標・市場形成・量産投資支援・ブラックボックス化)で、今回は国の支援の下で技術研究組合・共同出資の量産体制・官民ファンド・官民一体の市場形成(「チームジャパン」)を組むべきだ、という提案です。

屋根ではシリコンと競合し耐荷重で置けない場所を除けば限定的であること、2040年でもシリコンとの価格差が残ること、本命がタンデム型であること、日本の導入量が世界の約1%であることは、I-S3 が別稿で書いた内容と同じです。I-S3 が政府広報と報道の論法として検証した四段論法(日本発/ヨウ素/軽量/対中依存脱却)は、このコラムの論旨ではありません。コラムの提案は産業戦略にあります。

食い違いは、2040年20GWを達成するために国が導入目標・市場形成・量産投資・海外展開を一体で支えるべきか、それとも導入量を技術中立の成果目標(構造計算を通る屋根で30年の発電原価が最小になる方式)から出てくる結果に置くべきかです。前者は産業政策(日本企業が世界で勝つ)、後者はエネルギー政策(国内の電源コストと安全)への提案で、目的が違います。どちらが正しいかではなく、どちらの目的に対する提案かを分けて読む必要があります。

3. 「自立」の物差し(戦略の原本で)

比較2040年の値(円/kWh)自立化水準10円の位置
事業用シリコン 基本ケース(政策経費あり、WG最終版)8.4+19%
同(政策経費なし)7.9+27%
卒FIT発電所の継続原価 21〜30年目(低圧、パワコン交換込み)9.3〜9.9+1〜+8%
ペロブスカイト 参考値(WG最終版)15.3〜16.4—

「10円」はコラム独自の値ではなく、戦略p.31の自立化水準(大幅なコスト低減時。通常は14円以下)と同じです。この10円は、WGが同じ2040年に置く新設シリコンの基本ケースより2〜3割高く、20年を過ぎた既設シリコンの継続原価とほぼ同じ水準にあります。戦略p.34自身が2030年代を「既存シリコン太陽電池より高価格となることが想定」と書いています。つまり「自立」は「新設シリコンと競える」ではなく、「新設より2〜3割高いが支援なしで買い手がつく」水準を意味します。

20GWを設備利用率14%で動かすと年24.5TWh。新設シリコン8.4円との差額は、WG参考値16.4円のままなら年約1,960億円、14円に下がって年約1,370億円、10円に到達して年約390億円です(2040年断面、公開値のみ、幅あり)。

4. 習熟は国内では回らない(戦略の原本で)

戦略p.28は、累積10GWで設備費約14万円/kW、習熟率20%とすると10円/kWhに要る約6万円/kWには累積80GW強が要る、と置いています。国内目標は2040年に約20GW。差の60GW以上は海外で売る必要があります(習熟率15%なら累積371GW、25%なら77GW)。コラム自身が日本の導入量を世界の約1%と記しており、ここは両者が一致します。

この算術から出る帰結は一つです。国内の導入目標20GWを上下させても、習熟にはほとんど効きません。 国内目標の役割は、戦略p.32が書くとおりメーカーの投資に「予見性」を与える初期市場の形成にあります。導入量を国家目標に置く論理構造へのI-S3 の指摘は、ここに向きます。量産投資支援そのものの是非は、産業政策の選択として別の問題です。

公開報道時間差

中国では2026年に、GCLがGW級ラインの全工程を接続し、単接合はIEC 61215、タンデムはIEC 61215/61730の認証を得て、タンデム28%・10年製品保証・25年出力保証の製品を2026年7月から中国と日本で量産販売しています。LONGiはタンデムで35.5%を公表し、他社もGW級工場を稼働させています。日本勢ではカネカが2028年度の製品化を計画しています。コラムの提案する組合・共同出資・官民ファンドは、量産販売が始まった後に組成される時間差を前提にしています。

卒FITリプレース需要。コラムと戦略p.31②は、卒FIT発電所のタンデム型リプレースを需要の柱の一つに置いています。第1章で見たとおり、20年を過ぎたパネルの大半は発電能力を維持しており、出力低下の相当部分は回路側の損失で、不良モジュールだけを替える部分更新で継続原価は原本の帯から出ません。この結論が正しければ、リプレース需要はコラムと戦略の想定より小さくなります。

鉛と回収制度。20GWのペロブスカイトに含まれる鉛は累計約100トンで、専用の廃棄・回収制度はありません。コラムは「施工から廃棄・回収までのトータルソリューション」を海外販売の差別化要素として挙げています。国内でGW級の導入目標を置くなら、制度と費用負担を同時に法定する必要があります(第6章)。

5. 意見と立場

意見ペロブスカイトの場所と、国の役割について

ペロブスカイトに最適な場所は、私の見るところ存在しません。屋根の支配荷重は風圧と積雪で、自重の差が効く帯域はごく狭く、その面積の公的推計もありません。シリコン系に勝てる見通しはなく、日本が主導権を取る見込みもありません。中国勢は2026年に量産販売を始めています。

国の役割は研究開発までです。量産補助は方式を問わず支持しません。タンデム用のトップセルも同じで、量産はシリコンと同じく市場が判断すればよい。その結果トップセルが海外製になるなら、それは産業政策として選んだ結果です。

導入量は目標ではなく、構造計算を通る屋根で30年の発電原価が最小になる方式を選んだ結果として出てくる数字です。

益田 周防海(株式会社I-S3 代表取締役)

立場双方の利害

I-S3。既設シリコン発電所の継続(MLPE・中古パネル・O&M)で利益を得る立場で、ペロブスカイトの量産支援が小さいほど競合が減ります。

三菱総合研究所。次世代型太陽電池に関わる調査・コンサルティングを行う立場です(このコラムに受託の記載はなく、戦略に関わる受託の有無は公開情報では確認できていません)。

未確認確かめられていないこと

  • コラム図表1「屋根95%」と図表3のシナリオは前提が非公開で、再現していません。数値はWGと戦略の原本で置きました。
  • 戦略⑤「使用済太陽光パネルへの対応」(p.18)は精読していません。

6. 出典

  1. 三菱総合研究所「ペロブスカイト太陽電池の未来と日本企業の勝ち筋は?」伊藤陽人・井上智裕、2026年3月16日 https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20260316.html
  2. 経済産業省「次世代型太陽電池戦略」2024年11月28日 p.27・28・31・32・34 https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/perovskite_solar_cell/pdf/20241128_1.pdf
  3. 発電コスト検証ワーキンググループ「発電コスト検証に関する取りまとめ(最終版)」2025年2月6日 p.24・26 https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/mitoshi/cost_wg/pdf/cost_wg_20250206_01.pdf
  4. I-S3「ペロブスカイトを、一度忘れよう。」2026年9月2日 https://www.i-s3.com/perovskite-zero-base-review.html

引用や要約に誤りがあれば、出典とともに s_masuda@i-s3.com へお知らせください。訂正は日付を付けて本文に残します。引用元の方からの反論は、同じ分量で掲載します。

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益田 周防海(Suomi Masuda Ph.D.)/株式会社I-S3 代表取締役