要点
- 資源エネルギー庁の発電コスト検証ワーキンググループ(2025 年 2 月)は、2040 年に新設した場合のペロブスカイト太陽電池の発電コストを 15.3 円/kWh(政策経費を含めると 16.4 円)と試算した。同じ検証の 2040 年の事業用太陽光は 7.9 円(同 8.4 円)、住宅用は 9.9 円(同 10.1 円)であるA · EV-011, EV-048, EV-049
- 2040 年のペロブスカイトの値は、2023 年時点の事業用太陽光(10.0 円)と住宅用太陽光(14.0 円)のどちらよりも高いA · CL-024
- 前提は、建設費 20.4 万円/kW(設備費 14.3 万円+工事費 6.1 万円)、設備利用率 14%、寿命 20 年、250kW の屋根置きである。寿命 20 年はメーカー 6 社の見通しの中央値で、各社の見通しは 250kW 屋根置きを想定したものではないと検証自身が注記しているA · EV-047
- 2026 年 3 月に発売された最初の製品の耐久性は 10 年である。寿命を 10 年に置き換えると、資本費は約 1.7 倍になり、発電コストは 24 円前後に上がる(本調査の機械的な試算)C · CL-025
- 戦略が置く自立化水準 10〜14 円は、同じ政府試算の 2040 年の事業用シリコン(7.9 円)より高い。「自立化」は、シリコンと同じコストになることではなく、補助がなくても買う需要家が一定数いる価格を指しているA · EV-002, EV-053
1. 政府自身の試算
発電コスト検証ワーキンググループは、2040 年に向けたエネルギー政策の参考材料として、電源ごとに「2040 年に発電設備を新設・運転した際の kWh あたりのコスト」を一定の前提で試算しました。ペロブスカイト太陽電池は今回初めて対象になり、「技術が開発途上で、技術や発電に係る費用の予見性が必ずしも高くない」ため参考値の扱いですA · EV-047。
| 電源 | 2023 年(政策経費なし/あり) | 2040 年 基本ケース(なし/あり) | 2040 年の幅(なし) |
|---|---|---|---|
| ペロブスカイト太陽電池(参考値) | — | 15.3 / 16.4 | — |
| 太陽光(事業用、250kW) | 10.0 / 10.9 | 7.9 / 8.4 | 6.6〜8.4 |
| 太陽光(住宅用、5kW) | 14.0 / 14.5 | 9.9 / 10.1 | 7.6〜10.4 |
単位は円/kWhA · EV-011, EV-048, EV-049。幅は、設備費が世界水準に収斂するか、導入量見通しのシナリオ、習熟率、パネル劣化の有無で変わります。ペロブスカイトには幅が示されていません。
2040 年のペロブスカイト 15.3 円は、2040 年の事業用の約 1.9 倍、住宅用の約 1.5 倍です。それだけでなく、2023 年時点のシリコンの値(事業用 10.0 円、住宅用 14.0 円)よりも高い水準にありますA · CL-024。
2. 前提を読む
ペロブスカイトの試算の前提は次のとおりですA · EV-047。
| 項目 | 値 | 出所(検証資料の記載) |
|---|---|---|
| 建設費 合計 | 20.4 万円/kW | 協議会に参画するメーカー 6 社のコスト見通しと、2023 年設置の事業用太陽光(屋根設置)FIT/FIP 定期報告をもとに分析 |
| うち設備費(パネル) | 14.3 万円/kW | 6 社の見通しの中央値 |
| うち工事費等 | 6.1 万円/kW | 同上 |
| 廃棄費用 | 0.6 万円/kW | — |
| 運転維持費 | 0.37 万円/kW/年 | 事業用太陽光(屋根設置)FIT/FIP 案件の中央値 |
| 設備利用率 | 14% | シリコン 20% を仮定し、6 社の変換効率見通しと屋根設置案件の中央値から分析 |
| 稼働年数 | 20 年 | 6 社のコスト見通しにおける稼働年数の中央値 |
| 規模・設置形態 | 250kW・屋根置き | 事業用太陽光のモデルプラントと同一にするため便宜上設定 |
| IRR 相当政策経費 | 4% | 次世代型の FIT/FIP 区分は未設定のため事業用の水準を借用 |
読み取れる点が三つあります。
第一に、数値の大半は「協議会に参画するメーカー 6 社のコスト見通し」から来ています。第 2 回で発表した 6 社です(第 3 章)。検証は、各社の見通しが「必ずしも 250kW の屋根設置の設備が想定されているものでは無い」こと、各社の想定に「バラツキがある」ことを注記しています。将来の自社製品のコストをメーカーが見通した値の中央値が、政府の参考値になっています。
第二に、設備利用率 14% は屋根置きの値です。検証は「壁や窓に設置した場合は、屋根設置と比べて日射量が減るため、設備利用率が減少する」と記しています。戦略の需要推計では、国内の需要のうち壁と窓の分に 0.1875 の係数を掛けていますが(第 1 章)、壁・窓のコストは検証の対象になっていません。需要調査の報告書は、現在のコストとして屋根 28.0 円、壁 42.9 円、窓 57.5 円という値を示していますA · EV-007。
第三に、統合コスト(出力変動への対応費用)は、事業用太陽光や風力では検証されましたが、ペロブスカイトは「参考値との扱いに留まっており」対象外ですA · EV-047。
3. 寿命 10 年と 20 年
発電コストで最も効く前提の一つが稼働年数です。検証の 20 年は 6 社の見通しの中央値で、同じ検証の事業用太陽光は 25 年、参考ケースで 30 年です。
需要調査の報告書(2025 年 1 月)は寿命 10 年、初期費用約 25.1 万円/kW で現在のコストを計算していますA · EV-007。最初に発売された製品(積水化学工業、2026 年 3 月)の耐久性は 10 年と公表されていますB · EV-025。
寿命を 20 年から 10 年に置き換えると何が起きるかを、検証の内訳から機械的に求めます。2040 年の 15.3 円のうち、資本費(建設費 11.2 円+固定資産税 1.0 円+廃棄費用 0.2 円)は 12.4 円、運転維持費は 3.0 円ですA · EV-047。資本費は稼働年数にわたって回収する費用なので、割引率 3% で年数を 20 年から 10 年にすると、年あたりの回収額は約 1.74 倍になります。資本費 12.4 円は 21〜22 円になり、合計は 24〜25 円です(固定資産税と廃棄費用の扱いで小数点以下は前後する)。この試算は本調査が検証の内訳を使って行ったもので、政府の試算ではありませんC · CL-025。
つまり、現在市場にある製品の寿命で計算すると、2040 年のペロブスカイトは 2023 年の住宅用シリコン(14.0 円)の 1.7 倍前後、自立化水準の上限 14 円の 1.7 倍前後になります。15.3 円が成り立つには、2040 年までに寿命が 2 倍になるというメーカーの見通しが実現する必要があります。
4. 自立化水準 10〜14 円は何と比べた水準か
戦略は、ペロブスカイト太陽電池の「自立化が可能な発電コスト」を 10〜14 円/kWh と置き、20GW をこの水準での需要として説明していますA · EV-002。
この水準は、同じ政府試算の 2040 年の事業用シリコン(7.9 円)の 1.3〜1.8 倍、住宅用シリコン(9.9 円)と同じかやや高い水準です。つまり「自立化」は、シリコンと同じコストに到達することを意味していません。需要調査のアンケートで「この価格なら導入する」と答えた需要家が一定数いる価格帯を指しています。その需要家は、シリコンでは設置できない場所(耐荷重の低い屋根、壁、窓)に設置する前提で答えたと考えられますが、アンケートの設問は公開されていません。
第 10 回(2026 年 5 月)の事務局資料は、進め方のイメージの中で、2040 年以降もペロブスカイト太陽電池は「既存シリコン太陽電池より高価格となることが想定」と記していますA · EV-053。政府自身が、2040 年時点でもシリコンより高い前提で政策を組み立てています。
戦略の需要推計には、別の注記もあります。「ペロブスカイト太陽電池の経済性がシリコン太陽電池の経済性を上回った場合のみ導入が進むとの仮定の下での推計では、約 16 円/kWh まで発電コストが低減した後に一定の規模の需要が立ち上がる」A · EV-044。シリコンが設置できる場所では、シリコンより安くならなければ選ばれません。16 円という数字は、シリコンが設置できない場所の需要が立ち上がる水準として読めます。
5. 現在地と中間目標
戦略と事務局資料が示す発電コストの道筋は次のとおりですA · EV-053, EV-026。
| 時点 | フィルム型 | タンデム型 | 出所 |
|---|---|---|---|
| 現在(需要調査、寿命 10 年) | 屋根 28.0 円、壁 42.9 円、窓 57.5 円 | — | 需要調査報告書 |
| 2025 年 | 20 円の技術確立 | — | 第 10 回 事務局資料 |
| 2030 年 | 14 円の技術確立 | 12 円以下の技術確立 | 同上 |
| 2030 年(メーカー見通し) | 20 円程度 | — | 積水化学 事業説明会(2025-01) |
| 2040 年 | 自立化水準 10〜14 円 / 政府参考値 15.3 円 / 事務局試算 15 円台半ば | — | 戦略、検証 WG |
「技術確立」は、その年にその価格で製品が売られることではなく、その価格を可能にする技術が確立することを指します。最初に製品を出したメーカーは、2030 年の発電コスト見通しを「20 円程度」と説明していますA · EV-026。事務局の「2030 年 14 円の技術確立」と、メーカーの「2030 年 20 円程度」は、同じ年について別の数字です。
6. 第三者の見方
米国の調査機関 IEEFA は 2025 年 11 月の論考で、政府参考値 15.3 円と住宅用 7.6〜10.4 円・事業用 6.6〜8.4 円を並べ、耐久性 5〜12 年という各社公表値を挙げたうえで、ペロブスカイトはシリコンが設置できない用途とタンデム型に絞り、シリコンの導入を優先すべきだと提言していますA · EV-027。IEEFA の提言と海外各社の状況は第 7 章で扱っています。
7. ここまでで分かったこと、分からないこと
分かったこと
- 政府の 2040 年参考値 15.3〜16.4 円は、2040 年のシリコンの約 1.5〜1.9 倍で、2023 年のシリコンよりも高い
- 参考値の前提の大半はメーカー 6 社の見通しの中央値で、寿命 20 年もその一つ。現在の製品寿命は 10 年
- 寿命 10 年で計算し直すと 24 円前後になる(本調査の試算)
- 自立化水準 10〜14 円はシリコンと同じコストを意味しない。事務局資料は 2040 年以降もシリコンより高価格と想定している
- 壁・窓のコストと統合コストは、政府試算の対象外
分からないこと(確認中)
- 6 社それぞれのコスト見通しの値と、その前提(寿命、効率、規模)
- 寿命 10 年の前提で事務局が再計算した結果があるか
- 自立化水準 10〜14 円を置いた根拠(公開質問 Q02・Q03)
出典
| 記号 | 資料 |
|---|---|
| EV-011, 047, 048, 049 | 発電コスト検証ワーキンググループ「発電コスト検証に関する取りまとめ」(2025-02-06)p.5, 21〜25, 44〜45, 66〜69, 187 |
| EV-007 | 令和 6 年度 次世代型太陽電池の需要等に関する調査 報告書 p.38(2025-01) |
| EV-002, 044 | 次世代型太陽電池戦略 p.21〜22(2024-11-28) |
| EV-053 | 第 10 回 官民協議会 事務局資料 p.4(2026-05-20) |
| EV-025, 026 | 積水化学工業 プレスリリース(2026-03-27)、事業説明会 質疑応答(2025-01-07) |
| EV-027 | IEEFA "Japan needs a more nuanced perovskite strategy"(2025-11-25) |
数値の単位は特記のない限り円/kWh。各資料の URL と取得日は証拠台帳と一次資料一覧に掲載しています。
自宅や事業所の屋根に太陽光を載せるか迷っている方へ。ペロブスカイトを待つべきか、いま結晶シリコンで進めるべきか、屋根の条件と電気の使い方を伺って一緒に整理します。
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推奨する引用形式
益田周防海(2026)「第 4 章 発電コストの比較」株式会社I-S3、2026-10-29 公開、https://www.i-s3.com/perovskite-policy-investigation-ch4-cost-comparison.html