第 8 章 同じお金で何ができたか

公的支援の規模と、政府資料の単価による置き換え

益田 周防海(Suomi Masuda)/株式会社I-S3 | 2026年10月29日公開

要点

1. 公的支援の規模

ペロブスカイト太陽電池に向けた公的支援は複数の制度にまたがり、予算枠・採択上限・交付決定・実支出の階層が異なります(公的支援の台帳)。本章では「ペロブスカイト向けと確認できる公表上限」だけを集めますC · CL-032。

制度金額(億円)金額の種別証拠
GI 基金「次世代型太陽電池の開発」1,051基金の上限(2021 年度〜。第 9 回資料では 648 億円、第 10 回資料で 1,051 億円に増額。実証 623・タンデム実証 153.3 を含む)EV-076, EV-032, EV-033
GXSC 令和 6 年度 積水化学工業1,572.5採択時の補助金額(補助率 1/2、期間 2024-11〜2029-02)EV-016
GXSC 令和 7 年度補正 リコー98.6交付申請額EV-023
GXSC 令和 7 年度補正 長州産業37.9交付申請額(追加申請で増額の可能性)EV-024
GXSC 令和 7 年度 三星ダイヤモンド工業3.4交付申請額EV-022
環境省 導入支援 令和 7・8 年度50.2 + 70 = 120.2予算枠EV-052
合計約 2,884上限・予算枠の合計—

含めていないもの: GX サプライチェーン事業の年度予算枠(水電解・洋上風力と共通の内数)、委託調査費、自治体補助(東京都 9 億円ほか)、税制特例、2027 年度以降の環境省予算。IEEFA が整理した「今後 10 年で約 1 兆円」は「次世代再エネ」全体の計画値で、ペロブスカイト専用ではありませんA · EV-027。

実際に支出された額は、GI 基金の研究開発分を除いて公表されていません。積水化学の第 1 ライン(900 億円、2027 年度稼働)が進行中で、1,572.5 億円は 2029 年までの上限ですA · EV-016。したがって約 2,880 億円は「政府が約束した上限」であり、「使った額」ではありません。

2. 政府資料の単価

置き換えに使う単価は、政府自身の検討会が公表した 2023 年の実績値です。

対象単価出所
事業用太陽光(50kW 以上)建設費17.6 万円/kW(設備費 10.8 + 工事費等 6.8)発電コスト検証 WG p.41、FIT/FIP 定期報告の中央値A · EV-070
住宅用太陽光 建設費27.8 万円/kW(19.9 + 7.9)同A · EV-070
業務・産業用蓄電システム設備費 9.2 + 工事費 1.4 = 約 10.6 万円/kWh定置用蓄電システム普及拡大検討会 2024 年度とりまとめ p.18、補助事業 11 案件A · EV-071
家庭用蓄電システム設備費 11.1 + 工事費 1.0 = 約 12.1 万円/kWh同 p.11A · EV-071
蓄電システムの 2030 年目標価格家庭用 7 万円/kWh、業務・産業用 6 万円/kWh(工事費込)同検討会 2020 年度設定A · EV-072
ペロブスカイト 導入補助の実績単価746 万円/kW(採択 4 件の加重平均、補助率 2/3)環境省 第 10 回資料 2A · EV-051
ペロブスカイト 2040 年の建設費前提20.4 万円/kW発電コスト検証 WG p.68A · EV-047

3. 置き換え

約 2,884 億円を上の単価で割ると次のようになりますC · CL-033。

使い道全額を公費で負担した場合補助率 1/2 の場合年間発電量・容量の目安
事業用太陽光(2023 年単価)約 1.6GW約 3.3GW1.6GW × 設備利用率 18.3% ≒ 2.6TWh/年
住宅用太陽光(2023 年単価)約 1.0GW約 2.1GW1.0GW × 15.8% ≒ 1.4TWh/年
業務・産業用蓄電池(2023 年単価)約 2.7GWh約 5.4GWh—
家庭用蓄電池(2023 年単価)約 2.4GWh約 4.8GWh—
ペロブスカイト(環境省補助の実績単価、補助 2/3)—約 58MW(補助 2/3)58MW × 14% ≒ 0.07TWh/年
ペロブスカイト(2040 年の建設費前提 20.4 万円/kW)約 1.4GW約 2.8GW1.4GW × 14% ≒ 1.7TWh/年

読み方に注意が要る点が三つあります。

第一に、公的支援の大半(GI 基金と GXSC)は製造設備と研究開発への支援で、導入補助ではありません。「2,880 億円で 1.6GW の太陽光が建つ」は、同じ金額を導入側に回した場合の置き換えであり、製造業の育成という目的は別に評価が必要です。

第二に、単価の時点が違います。太陽光と蓄電池は 2023 年の実績、ペロブスカイトは 2025 年度の先行事例(付帯費を含む)と 2040 年の前提値です。2040 年のペロブスカイト 20.4 万円/kW が実現すれば、同じ金額での導入量は 2023 年の事業用太陽光とほぼ同じ桁になります。ただしその 2040 年には、政府試算の事業用太陽光の設備費は 5.6 万円/kW に下がっている前提ですA · EV-048。

第三に、1 件の金額は上限で、実際の支出は少ない可能性があります。

4. 2040 年の発電コスト差

20GW が実現した 2040 年の断面で、政府の発電コスト検証の値を使って年間のコスト差を求めますC · CL-034。

ペロブスカイトの発電コスト事業用太陽光との差20GW の年間発電量 24.5TWh に対する差額
15.3 円(WG 参考値、政策経費なし)vs 7.9 円7.4 円約 1,800 億円/年
16.4 円(同、政策経費あり)vs 8.4 円8.0 円約 1,960 億円/年
14 円(自立化水準の上限)vs 7.9 円6.1 円約 1,500 億円/年
10 円(自立化水準の下限)vs 7.9 円2.1 円約 500 億円/年

20GW × 8,760 時間 × 設備利用率 14% ≒ 24.5TWhA · EV-047。差額は、同じ電力量をシリコンで得た場合に比べて、需要家または補助金が毎年多く負担する額に相当します。政府試算どおりなら年 1,800 億円前後、自立化水準の上限 14 円に届いても年 1,500 億円です。この差額は、ペロブスカイトの寿命を 10 年とした場合(第 4 章、24〜25 円)にはさらに大きくなります。

5. 比較が成り立たない部分

この章の置き換えには限界があります。

ペロブスカイトの政策目的は、シリコンが設置できない場所(耐荷重の低い屋根、壁面、窓)を開拓することです。その場所では「同じ金額でシリコンを入れる」という選択肢そのものがありません。比較が意味を持つのは、シリコンでも設置できる場所にペロブスカイトを入れる部分についてです。

戦略の需要推計を再現した三菱総合研究所の分析では、2040 年の 20GW のうち屋根設置が 20.1GW(95%)を占めます。屋根のうち耐荷重が足りない建物の割合は、戦略も委託調査も公表していませんA · EV-074。したがって「20GW のうちシリコンと置き換え可能な部分」は確定できず、本章の差額は上限の目安です。

また、製造業の育成(国内に GW 級の生産体制を持つこと)と、海外市場での売上は、導入側の置き換えでは測れません。この点は、海外の実績(第 7 章)と、開示請求で求めている費用対効果の試算(第 10 章)の結果を待って評価します。

6. ここまでで分かったこと、分からないこと

分かったこと

分からないこと(確認中)

出典

記号資料
EV-016, 022, 023, 024, 032, 033, 052, 076積水化学工業 リリース(2024-12-26)、GXSC 採択一覧(2026-02/2026-10-27)、NEDO 採択(2026-02-06、2026-08-06)、環境省 第 10 回資料 2(2026-05-20)、第 9 回・第 10 回 事務局資料の GI 基金額
EV-047, 048, 070発電コスト検証ワーキンググループ 取りまとめ p.41, 45, 66〜69(2025-02-06)
EV-0712024 年度 定置用蓄電システム普及拡大検討会 結果とりまとめ p.11, 18(2025-03-07)
EV-072同検討会の目標価格(2020 年度設定)、経済産業省委託調査報告書(2023)p.9
EV-051環境省 第 10 回資料 2 p.10〜13(2026-05-20)
EV-074三菱総合研究所 コラム(2026-03-16)
EV-027IEEFA "Japan needs a more nuanced perovskite strategy"(2025-11-25)

金額の単位は億円、単価は万円/kW または万円/kWh。計算はいずれも本調査が公表値から機械的に求めたもので、区分 C としています。各資料の URL と取得日は証拠台帳と一次資料一覧に掲載しています。

自宅や事業所の屋根に太陽光を載せるか迷っている方へ。ペロブスカイトを待つべきか、いま結晶シリコンで進めるべきか、屋根の条件と電気の使い方を伺って一緒に整理します。

自分の屋根の場合を相談する

この特集のページ

引用・再利用について

付属資料の CSV と Markdown(一覧)は CC BY 4.0 で公開します。出典として株式会社I-S3と本ページの URL を明記すれば、転載・改変・商用利用を含めて自由に使えます。本文は出典を明記したうえでの引用はそのまま行えます。

本特集で名前を挙げた方・組織からの反論・訂正の申し出は、お問い合わせまたは s_masuda@i-s3.com で受け付け、同じ分量で掲載します。

推奨する引用形式

益田周防海(2026)「第 8 章 同じお金で何ができたか」株式会社I-S3、2026-10-29 公開、https://www.i-s3.com/perovskite-policy-investigation-ch8-opportunity-cost.html