要点
- 戦略の需要推計は、公共部門(学校、病院、官公庁、公共系の娯楽・商業施設)に 5〜7GW の需要を見込む。政府が自ら保有する施設の導入目標は 2035 年に 50〜70MW、2040 年に 100MW 以上で、公共部門需要の 1.4〜2%にあたるA · EV-019, EV-058
- 環境省の調査では、政府施設のポテンシャルは屋根・外壁・窓を合わせて約 11 万 kW(約 105MW)である。2040 年の目標 100MW 以上は、このポテンシャルのほぼ全量にあたる。公共部門需要の残り約 5〜7GW は、自治体と公的機関の施設に依るA · EV-050, CL-027
- 環境省の導入支援事業で 2025 年度に採択された 4 自治体の総事業費は、1kW あたり 605〜786 万円、加重平均で約 750 万円である。先行事例の付帯費を含む値で、製品価格ではないA · EV-051, CL-026
- 補助率は 2/3(避難施設・インフラ空間は 3/4)、予算は 2025 年度 50.2 億円、2026 年度 70 億円。採択 5 件の合計は約 80kWA · EV-031, EV-052
- 補助金なしの民間商業導入は、2026 年 10 月時点で公表事例が確認できない。国内メーカーの出荷量も公表されていないB · CL-007
1. 需要推計のうち公共部門
戦略の需要曲線を導入先別に見ると、公共系建築物の需要は発電コスト 16 円/kWh で約 5GW、14 円で 5〜6GW、10 円で約 7GW です。民間・個人所有は 16 円で約 16GW、10 円で約 30GW ですA · EV-058。環境省は 2026 年 6 月の資料で、この推計を引いて「公共部門で 5000〜7000MW(5〜7GW)の需要が見込まれる」と記していますA · EV-019。
注意すべき点は、この 5〜7GW も発電コストが 10〜14 円に下がった場合の値だということです。需要調査では現在のコストを屋根 28 円と置いており(第 4 章)、公共部門の需要も、コストが半分になった場合に立ち上がる需要として推計されています。
2. 政府施設の目標とポテンシャル
政府実行計画(2025 年 2 月閣議決定)は、政府が保有する建築物等へのペロブスカイト太陽電池の率先導入を定めました。環境省は 2026 年 3 月の関係府省庁連絡会議で、目標を「2040 年には国内で 20GW 導入する需要創出の目標からバックキャストして設定する」方針を示しA · EV-020、6 月に次の目標を設定しましたA · EV-019。
| 年 | 政府保有施設の導入目標 |
|---|---|
| 2030 年度 | 60MW(従来型の太陽電池を含む既存目標) |
| 2035 年 | ペロブスカイト 50〜70MW |
| 2040 年 | ペロブスカイト 100MW 以上 |
目標の前提として、環境省は各府省庁の施設を対象にポテンシャル調査を行いました。屋根は陸屋根を中心に 60,410kW、外壁はコンクリート系・タイル系を中心に 23,325kW、窓は 21,790kW、合計約 11 万 kW です。防衛省施設は含まれていません。係数(設置密度 0.067kW/m² など)は有識者ヒアリング等で設定されていますA · EV-050。
2040 年の目標 100MW 以上は、このポテンシャル(合計 105,525kW、約 105MW)とほぼ同じ量です。つまり、政府が自らの施設で出せる需要は、調査した屋根・壁・窓をすべて使っても 0.1GW です。公共部門に見込む 5〜7GW の残り 98% 以上は、自治体、独立行政法人、公立学校・病院などの施設から来る必要があります。
環境省自身もこの点を認識しており、「全国の地方公共団体が保有・管理する施設数が政府施設よりも多いことに鑑み」、協議会に参加する 182 自治体を念頭に、目標設定や導入計画の策定への支援を新たに行うとしていますA · EV-019。
3. 自治体の目標
第 10 回(2026 年 5 月)の事務局資料は、GW 級の導入目標や大規模実証を行う 8 自治体と、支援制度・予算措置を行う 24 自治体を挙げていますA · EV-053。
| 自治体 | 目標 | 支援 |
|---|---|---|
| 東京都 | 2035 年 約 1GW(うち都有施設 約 1 万 kW)、2040 年 約 2GW | 民間事業者への設置費 10/10 補助 |
| 愛知県 | 2040 年 1.2GW | 県・市町村・アイシン・トヨタ等で推進協議会、インフラ空間 10 か所で実証 |
| 大阪府 | 2030 年 80MW、2035 年 530MW | 堺市で工場への税制優遇 |
| 福岡市 | — | 民間事業者への導入補助、ドームへの設置 |
2040 年の目標を持つのは東京都と愛知県で、合計 3.2GW です。東京都の目標のうち都有施設は約 1 万 kW(10MW)で、残りの 99% は民間と区市町村の施設です。東京都は民間事業者の設置費を全額補助する制度を実施予定としており、都の需要も補助を前提にしています。
自治体目標の合計は、公共部門需要 5〜7GW にも、国内目標 20GW にも届いていません。目標を持たない 170 余りの参加自治体がどれだけ導入するかは、現時点で見積もる材料がありません。
4. 導入補助の単価
環境省の「ペロブスカイト太陽電池の社会実装モデルの創出に向けた導入支援事業」は 2025 年 9 月に公募を始め、5 件を採択しました。環境省の事例集に総事業費が載る 4 件から、1kW あたりの事業費を機械的に求めると次のとおりですA · EV-051。
| 採択先 | 設置場所 | 容量 | 総事業費 | 1kW あたり |
|---|---|---|---|---|
| さいたま市 | 小学校体育館(折板屋根) | 5.28kW | 3,990 万円 | 756 万円 |
| 滋賀県 | 博物館、高校体育館 2 校 | 29.92kW | 2 億 3,510 万円 | 786 万円 |
| 福岡県 | 高校体育館 | 14.52kW | 8,789 万円 | 605 万円 |
| 福岡市 | 小中学校体育館 3 校 | 25.08kW | 1 億 9,536 万円 | 779 万円 |
| 合計・加重平均 | 74.8kW | 5 億 5,825 万円 | 約 746 万円 |
出典: 環境省 事例集(2026 年 3 月)、第 10 回 環境省資料 p.10〜13A · EV-051, CL-026。NEXCO 西日本(桂川 PA)は総事業費約 4,100 万円、容量未公表。
いずれも 110W のフィルム型モジュールで、1kW に約 9 枚を使います。総事業費には設計、足場、架台・金具、パワーコンディショナ、配線、普及啓発の費用が含まれ、蓄電池は補助対象外です。先行事例であり、製品単価でも将来の設置単価でもありません。それでも、比較の目安として、発電コスト検証の 2023 年の事業用太陽光(屋根置き)の設備費は 10.8 万円/kW、住宅用は 19.9 万円/kW ですA · EV-048, EV-049。先行 4 件の事業費は、その 37〜69 倍の水準にあります。
補助率 2/3 で単純に計算すると、1kW あたりの国費は約 500 万円です。2026 年度予算 70 億円をこの単価で割ると約 1,400kW(1.4MW)になりますC · 本調査の機械的計算。単価は件数が増えれば下がると見込まれますが、2035 年の政府目標 50〜70MW、自治体を含む公共部門の 5〜7GW に対して、現在の単価と予算規模は桁が違います。
5. 補助の要件
設備導入の補助要件は、設置場所の耐荷重が 10kg/m² 以下相当であること、1 施設 5kW 以上、自家消費率 50% 以上、JET の性能評価を受けたフィルム型・建材一体型であることです。補助率は 2/3、避難施設やインフラ空間は 3/4、上限は 10 億円ですA · EV-021, EV-052。2026 年度からは事前調査・導入計画策定にも補助率 9/10、上限 500 万円の枠が加わりますA · EV-052。
耐荷重 10kg/m² 以下という要件は、シリコン太陽電池が載らない屋根に限る「追加性」の条件です。第 9 回の要旨には「追加性の観点から適切に支援対象を絞り込む考えに賛同」という発言がありA · EV-054、第 10 回の事務局資料は「需要創出においても支援対象の重点化を進めていくことが必要」と記していますA · EV-053。
一方で、同じ 2026 年には、地上設置の事業用太陽光(シリコン)について 2027 年度以降の FIT/FIP 支援を廃止することが決まりましたA · EV-053。シリコンへの支援を縮めながら、ペロブスカイトの導入補助は 50 億円から 70 億円に増えています。両者の費用対効果(同じ国費で得られる kWh)を並べた政府資料は確認できていませんC · CL-017。
6. 導入実績の区分
2026 年 10 月時点で確認できる国内の導入を区分すると次のとおりですA · 公的支援の台帳 §4。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 補助金なしの民間商業導入 | 公表事例を確認できない |
| 補助金ありの民間導入 | NEXCO 西日本 1 件(環境省補助)。東京都の都有施設先行導入は都の事業 |
| 公共調達 | 環境省採択 4 自治体 約 75kW |
| 実証・研究用途 | NEDO 実証各社、金融機関店舗、風車タワー、港湾施設など |
| 導入予定・検討 | 自治体目標(東京都 2GW、愛知県 1.2GW、大阪府 530MW)、政府施設 100MW |
国内メーカーの出荷量(MW)は公表されていません。最初に製品を出したメーカーの 2026 年度の供給は「現有設備で限定的」で、報道では年 10MW 程度ですB · EV-025。第 10 回の要旨には、新設の業界団体に「ペロブスカイト太陽電池の国内出荷量の正確な把握等に対する寄与を期待」という発言がありA · EV-055、出荷量を把握する公的な統計はまだありません。
7. ここまでで分かったこと、分からないこと
分かったこと
- 公共部門 5〜7GW のうち、政府自身の施設で出せるのは最大約 0.11GW。残りは自治体・公的機関に依る
- 2040 年目標を持つ自治体は 2 つで合計 3.2GW。うち自治体自身の施設はごく一部で、残りは民間への全額補助などを前提にしている
- 先行 4 件の事業費は 605〜786 万円/kW。補助率 2/3、年 70 億円の予算で導入できる量は現在の単価では 1〜2MW/年の桁
- 補助金なしの民間導入は確認できず、出荷量の統計もない
- シリコン地上設置への FIT/FIP 支援は 2027 年度以降廃止、ペロブスカイト導入補助は増額。両者を比べた政府資料は無い
分からないこと(確認中)
- 環境省補助の交付決定額と、2026 年度の採択状況
- 自治体目標の積み上げの根拠(東京都 2GW の内訳)
- 国内出荷量、補助対象外の導入量
- 環境省が 100MW 目標を「20GW からのバックキャスト」でどう導いたか(公開質問 Q09)
これらは開示請求 05B(環境省 導入支援事業)と公開質問状で確かめています。
出典
| 記号 | 資料 |
|---|---|
| EV-019, 020, 021 | 環境省「政府部門におけるペロブスカイト太陽電池の率先導入について」(2026-03-30 第 6 回連絡会議資料、2026-06-18) |
| EV-050, 051, 052 | 第 10 回 官民協議会 資料 2「ペロブスカイト太陽電池の需要創出に向けて」(環境省、2026-05-20)p.5〜13 |
| EV-053 | 第 10 回 官民協議会 資料 1(事務局、2026-05-20)p.8, 20, 22, 27 |
| EV-058 | 次世代型太陽電池戦略 導入先別の需要推計(第 8 回資料 p.23、第 10 回資料 1 p.29) |
| EV-031 | 環境省 導入支援事業 採択事業一覧(2025 年度) |
| EV-048, 049 | 発電コスト検証 WG 取りまとめ p.21, 23, 45(2025-02-06) |
| EV-054, 055 | 第 9 回・第 10 回 官民協議会 議事要旨 |
| EV-025 | 積水化学工業 プレスリリース(2026-03-27)、日経 BP(2026-03) |
各資料の URL と取得日は証拠台帳と一次資料一覧に、金額の階層(予算・採択・交付・実支出)の整理は公的支援の台帳に掲載しています。
自宅や事業所の屋根に太陽光を載せるか迷っている方へ。ペロブスカイトを待つべきか、いま結晶シリコンで進めるべきか、屋根の条件と電気の使い方を伺って一緒に整理します。
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推奨する引用形式
益田周防海(2026)「第 5 章 補助金が作る需要」株式会社I-S3、2026-10-29 公開、https://www.i-s3.com/perovskite-policy-investigation-ch5-subsidized-demand.html