卒FIT電源の継続コスト ― 全面更新を織り込むか、不良モジュールだけを替えるか

― 原本の数字と、コラムが足した仮定 ―

三菱総合研究所の柴田康智氏のコラム「『再エネ国民負担』を起点に考える卒FIT電源維持」(2026年6月4日)は、卒FIT電源は償却済みでも機器更新と運用でコストが増え、長期継続は難しいと書いています。脚注が引く「環境省調査」の卒FIT後発電単価7〜10円/kWhの原本に当たり、どの仮定を足すと「厳しい」になるのかを、公開値だけで置き直します。

執筆: 益田 周防海(Suomi Masuda)/株式会社I-S3 | 公開: 2026年10月16日 | 第1章 | 取り上げる文章: 三菱総合研究所 柴田康智氏 コラム(2026-06-04)

検証 意見と立場 序章・終章へ

1. 取り上げる文章

コラム三菱総合研究所 ナレッジ・コラム「『再エネ国民負担』を起点に考える卒FIT電源維持」柴田康智氏(電力・エネルギー本部、掲載時の表記)、2026年6月4日
脚注の原本環境省 令和3年度委託業務報告書(2022年3月、576頁)。表紙に「作成: 株式会社三菱総合研究所 サステナビリティ本部」。卒FIT後(21〜30年目)の発電原価を低圧9.6/高圧8.2/特高10.4円/kWhと試算
関連同社コラム「カーボンニュートラル実現のカギは『卒FIT電源』」伊藤陽人氏(2024年12月3日)。環境省 令和2年度調査(個人アンケート)、経済産業省 令和4年度調査(認定事業者アンケート)。いずれも三菱総合研究所が実施

2. コラムの主張と、同意できる点

コラムの筋道はこうです。賦課金総額は2033年頃から減少に転じ、2025年度に運転中の太陽光の約3割が2035年度までに卒FITを迎える。卒FIT電源は償却済みで収益を確保しやすいと一般に考えられているが、実際には機器更新や運用でコストが増え、市場も不透明で、長期の継続は難しい。脚注では「環境省調査では卒FIT後の発電単価が7〜10円/kWhとされており、これにパネル更新費用を加えると卒FIT後においても事業性が厳しい」としています。炭素価格が卸価格に反映されて再エネの競争力が上がる時期と、卒FITの事業判断の時期には時間差があり、本来は続けられる電源が早く退出するおそれがある。対策は長期安定適格事業者制度のインセンティブ拡充、リパワリングの推進、電源維持の価値付けだ、という内容です。

卒FIT電源を廃棄せずに残すべきこと、時間差の指摘、リパワリングの推進は、I-S3 も同じ考えです。食い違いは一点、「パネル更新費」をどの範囲で置くかにあります。

3. 原本の前提と、コラムが足した仮定

原本環境省 令和3年度報告書の置き方

低圧49.5kWの卒FIT後(21〜30年目)の発電原価は9.6円/kWh(パワコン価格の低減を見込めば8.3円)。この値は11年目と21年目のパワコン交換を含み、パネルの更新は含みません。劣化は0.5%/年、ランニングコストは0.42万円/kW/年で、土地賃借料・修繕費・保守点検費・人件費・保険料を含みます。費目で最も大きいのはランニングコスト、次がパワコン交換、発電側課金、バランシングコストの順です。報告書自身が「軽微な修繕費は運転維持費に含まれる」と注記しています。

コラムが「環境省調査」として引くこの報告書は、環境省の委託で三菱総合研究所サステナビリティ本部が作成したものです。

再計算パネル更新の置き方を3通りで

入力はすべて公開値です。低圧49.5kW、21〜30年目の10年、割引率3%、設備利用率17.2%、売電10円/kWh、パワコン交換 機器3.1+工事1.6万円/kW、ランニング0.42万円/kW/年、発電側課金0.96・バランシング0.75円/kWh(ここまでは原本と同じ)。新品パネルは約6.7万円/kW(調達価格等算定委員会 2026年意見のシステム費用20.3万円/kWの約33%)。中古パネルは3.0〜6.0万円/kW(300W級9,000〜18,000円/枚の公開相場)。モジュールの交換率の実測は、産総研メガ・ソーラータウンで7年2.0%(約0.3%/年)、IEA PVPSで11〜12年2%(約0.17%/年)です。

パネル更新の置き方追加費用発電原価(円/kWh)10円売電との関係
① 原本どおり(更新なし)09.3(原本9.6)ほぼ損益分岐
② 21年目に全面更新(新品6.7万円/kW+工事+旧パネル売却)7.3〜14.9万円/kW14.6〜20.8成り立たない
③ 不良モジュールだけ入替(年0.3〜1.0%、同型の中古または新品)0.7〜6.6万円/年9.4〜10.3原本の帯から出ない

全面更新を前提にすれば、コラムの「厳しい」は算術として正しい。しかし、公開の実測に基づいて不良モジュールだけを替えるなら、発電原価は原本の帯から出ません。原本のランニングコストは修繕費を含むので、この追加分の一部はすでに織り込まれています。食い違いは「パネル更新費を加えるか」ではなく、「全面で置くか、不良モジュールだけで置くか」です。

出どころ「劣化0.5%/年」は何を測った値か

原本と発電コスト検証ワーキンググループが置く「パネル経年劣化0.5%/年」は、米国NRELが約2,000件の研究測定から得た中央値で、元データの約8割はモジュール単体の測定です。発電所として連系点で測った出力低下の中央値は0.75%/年で、NRELはその差を直列ミスマッチ・汚れ・配線など回収できる損失としています。運転中の発電所で見えるのは回路単位の出力であり、モジュール単体の劣化を事業規模で取得する手段はありません。出力低下にはモジュール自体の劣化と回路側の損失が混ざっていて、後者は回路を細かく分ける(MLPE・多MPPT)ことで取り戻せます。ストリング型のまま21〜30年目を迎える発電所の原価は9.9円側に寄り、MLPE化はそれを9.3円側に戻す手段になります。

4. 撤去費用と「放置」

低圧50kWの撤去工事費の公開目安は100〜150万円で、大半は作業・運搬・重機の費用です。一方、解体で出る鉄・銅・アルミは有価で、2026年10月時点の公開買取価格(アルミ330〜450円/kg、鉄45〜55円/kg、銅1,300〜2,300円/kg)で置くと、金属だけで48〜129万円になります(重量は架台・杭・ケーブルの推定値で案件により異なります。金属価格は変動するので時価を参照してください)。パネルを加えれば、良品であれば撤去費用は相殺できる範囲にあります。

原本が「放置される案件が大量に発生する懸念」の根拠に置くのは令和2年度アンケートの継続意向(37%)で、部材の資産価値は試算に入っていません。撤去費が払えないから放置する、という経路は一般には成り立ちません。放置が起きるとすれば、所有者の不在・相続・資金の流用といった別の原因で、それを防ぐ手段は撤去費の積立より、売却できる部材と継続運転の市場を残すことにあります。

中古パネルの販売価格(3.0〜6.0万円/kW)は新品(6.7万円/kW)より少し低い程度で、「中古だから安い」とは言えません。利点は価格ではなく、既設の架台とストリングに同じ寸法・特性で収まり、1枚だけ替えられることにあります。

5. 卒FIT後の意向調査 ― 同じ組織が設計した二つの調査

卒FIT後に低圧案件がどれだけ残るかについて、同じ三菱総合研究所が設計した二つの調査が異なる値を示しています。環境省の令和2年度調査(2021年2月、屋根置き以外の低圧設備を持つ個人をインターネットモニターで集め、1,067人・2,023システム)では「所有して発電を続けたい」が37%、売却26%、撤去10%。経済産業省の令和4年度調査(2022年9〜10月、FIT認定事業者へのメール配信、10〜50kWで731件回答)では「更新せず継続」51%+「更新して継続」27%で78%、売却3%、廃棄4.9%です。

差は、母集団(個人のみか、法人を含む認定事業者か)、回収経路(ネットモニターか、制度を把握した事業者への配信か。前者はFITが20年で終わることを知らなかった回答者が36%を占め、報告書自身がそう注記しています)、選択肢の設計(後者には「更新して継続」がある)、時期(電力価格高騰の前後)で説明できます。どちらが実態に近いかは、この二つからは決められません。令和3年度報告書の「2040年までに最大30.5GWが脱落しうる」という値は、前者の37%を全規模に当てはめた最悪の場合で、同報告書も「高圧・特高では継続割合はより高い可能性」「今後精緻化が必要」と記しています。

6. 意見と立場

意見撤去費用の心配と、全面更新という前提について

解体した発電所の部材は、鉄・銅・アルミを主に、売却できる資産です。撤去費用の心配は、実務から見てナンセンスです。もちろん撤去せずに発電を続けるのがいちばん合理的で、少なくとも「放置」の心配は経済合理性から見ておかしい。

発電所の全面更新は非現実的です。20年を過ぎても大半のパネルは発電能力を維持しています。発電量が落ちているように見える原因の多くはパネルの劣化ではなく回路のミスマッチで、MLPEや多数のMPPTに分けることでかなり改善できますし、問題の発見も修理も更新も効率化します。

そもそもモジュール単体の劣化は、実務上取得できないデータです。発電所で見えるのは回路単位の出力だけで、その単位を細かくする以外に「どのモジュールを替えるか」を決める手段はありません。

益田 周防海(株式会社I-S3 代表取締役)

立場双方の利害

I-S3。MLPE機器・中古パネル・O&Mを提供しており、部分更新と継続運転が主流になれば利益を得る立場です。

三菱総合研究所。卒FIT電源のアセットマネジメント・デューデリジェンスのサービスを提供しており、集約と制度インセンティブが主流になれば利益を得る立場です(同社コラムに自己開示があります)。

未確認確かめられていないこと

  • 20年を超えたストリング型でのミスマッチ損の量。公開の実測はありません。
  • 2024年12月のコラムが示す「20%以上が離脱」の計算式は公開されていません。
  • 金属重量(kg/kW)の公開値はなく、推定の幅で示しました。

7. 出典

  1. 三菱総合研究所「『再エネ国民負担』を起点に考える卒FIT電源維持」柴田康智、2026年6月4日 https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20260604.html
  2. 環境省「令和3年度 2050年カーボンニュートラルに向けた中長期的な温室効果ガス排出削減達成に向けた再生可能エネルギー導入拡大方策検討調査委託業務 報告書」(株式会社三菱総合研究所 サステナビリティ本部)2022年3月、表4-36・図4-59 ほか https://www.env.go.jp/earth/report/r02-01/20230118.pdf
  3. 環境省「令和2年度 長期戦略等を受けた中長期的な温室効果ガス排出削減達成に向けた再生可能エネルギー導入拡大方策検討調査委託業務 報告書」2021年3月(個人アンケート) https://www.env.go.jp/content/900449153.pdf
  4. 経済産業省「令和4年度エネルギー需給構造高度化対策に関する調査等事業」報告書(株式会社三菱総合研究所)p.33–34(認定事業者アンケート) https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2022FY/000382.pdf
  5. 三菱総合研究所「カーボンニュートラル実現のカギは『卒FIT電源』」伊藤陽人、2024年12月3日 https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20241203.html
  6. 調達価格等算定委員会「令和8年度以降の調達価格等に関する意見」(2026年2月5日) p.12(システム費用の内訳) https://www.meti.go.jp/shingikai/santeii/pdf/20260205_1.pdf
  7. I-S3「FIT後の太陽光は『廃棄』ではない――市場で回すライブ資産という考え方」 https://www.i-s3.com/fit-post-live-asset-model.html

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益田 周防海(Suomi Masuda Ph.D.)/株式会社I-S3 代表取締役