1. 取り上げる文章
| 日付 | コラム(三菱総合研究所、著者は掲載時の表記) | 要旨 |
|---|---|---|
| 2024-10-15 | 動き出した国内蓄電池ビジネス 第3回: 再エネ併設蓄電池ビジネスの展望 伊藤綾子 | 併設蓄電池はFIP移行促進策で検討が活性化。小規模案件のバルク運用 |
| 2026-04-24 | 優先給電ルール改定がFIP再エネ事業にもたらす影響 大家直也 | 抑制を免れた時間帯は0.01円コマで価値が低く、プレミアム収入は年1円/kWh程度下がりうる。「ルール改定は既存FIT再エネのFIP移行の1つのドライバー」 |
| 2026-05-13 | 2027年 再エネが直面する新・優先給電ルール 石田裕之・大谷尚徹 | FIT電源→FIP電源の順に出力制御。制御率4%ならFIT電源は約7%。FIT32円・20MWで年約3,000万円の追加減収。「2026年度を市場統合に備える1年に」 |
| 2026-09-30 | FIP制度下の再エネ発電の収益を左右する発電プロファイルリスク 大谷尚徹・直井宏樹 | いつ発電するかで収入が変わる。オープンデータで確率評価ができる |
2. コラムの主張と、同意できる点
4本に共通する筋道はこうです。市場統合は正しい方向で、FIPはその鍵となる制度である。移行は進んでいないが、優先給電ルールの改定でFIT電源は構造的に不利になるので、事業者はFIPへの転換や蓄電池の併設を含めて確率的に事業性を評価し、2026年度中に備えるべきだ。FIPにもプレミアム差損やプロファイルリスクがあるから、評価は定量的でなければならない。
FIPでもプレミアム差損・プロファイルリスクがあり移行が自動的に収益改善にならないこと、小規模ほど固定費が重いこと、2027年度以降FIT電源が構造的に不利になることは、I-S3 も同じ考えです。コラムは「低圧にFIPを促すべき」とは書いていません。
4本はいずれも、FIPが政策目標に対して機能したかを評価していません。「市場統合の潮流」を前提に置いています。以下では、その前提の実績を政府自身の目安と数値で確かめます。
3. 年表(政府資料のみ)
| 時期 | 出来事 | 出典 |
|---|---|---|
| 2022年4月 | FIP制度開始。1,000kW以上はFIP必須、50kW以上は選択可 | 調達価格等算定委員会 |
| 2023年度 | 必須ラインを500kW以上に | 同 |
| 2024年3月末 | FIP認定 全電源1,761MW・1,199件。事業用太陽光のFIP活用率は出力0.7%・件数0.1% | 第66回 再エネ大量導入・次世代電力NW小委員会 資料3(勉強会資料に再掲) |
| 2024年8月7日 | 政府が目安を置く:「FIT/FIP全体の約25%がFIP電源に移行するまでの間、集中的に支援を強化」。太陽光発電協会は同会合で「太陽光FIP 0.6GWは累計導入73GWの0.8%、25%にはさらなる対策が必要」と発言 | 第66回 資料3 |
| 2024年度 | 必須ラインを250kW以上に | 算定委 |
| 2024年12月末 | FIP認定 全電源3,130MW・1,701件(9か月で容量1.8倍・件数1.4倍)。FIT/FIP全体の約3%。太陽光938MW・1,563件(新規587MW・799件、FITからの移行351MW・764件) | FIP制度の活用促進に向けた勉強会 第1回 資料1 |
| 2025年3月末 | FIP認定 全電源3,795MW・1,889件、FIT/FIP全体の出力ベース約3.7%。太陽光1,070MW・1,729件(新規706MW・934件、移行363MW・795件)で、太陽光のFIT/FIP認定量の1.4%(新規0.9%・移行0.5%、件数ベース0.1%)。規模別の内訳は無い | 第77回 再エネ大量導入・次世代電力NW小委員会 資料1 p.24(2025年11月12日) |
| 2025年度 | 移行促進パッケージ: ①優先給電ルールをFIT電源→FIP電源の順に(2026/2027年度)②バランシングコスト+1.00円/kWh(FIP比率25%到達年度まで。FIT出力制御増による国民負担減少分の範囲内)③併設蓄電池の系統充電・事後設置 ④非化石証書の直接取引 ⑤アグリゲーター・マッチングプラットフォーム ⑥勉強会 ⑦系統用蓄電池促進 ほか | 同 |
| 2025年9月11日 | 勉強会第1回。政府資料は「一定のFIP制度の活用が進んでいる」「将来的には全ての電源についてFIP移行が望ましい」 | 同 |
| 2026年度〜 | 50kW以上はFIPのみ。事業用太陽光は一定の条件で50kW未満もFIP可 | 算定委 2026年2月5日 意見 別紙 |
読み方は一つで足ります。目安は25%、開始2年9か月時点の実績は約3%(目安の8分の1)。移行を進めるために、政府自身がFIT電源の出力制御順を後ろに回し、FIP電源のプレミアムを上乗せし、勉強会を開く必要がありました。同じ数値を見て、政府資料は「一定の活用が進んでいる」と書き、I-S3 は別の評価をします(意見の欄)。
4. 低圧はFIPを選べなかった ― I-S3 の訂正を含む
FIPを選べる規模は1,000kW→500kW→250kWと段階的に下ろされ、50kW未満は2025年度まで対象外でした。低圧FIT既設の大半は、FIPに移る選択肢そのものがありませんでした。
I-S3 の公開ページがこれまで引いていた「FIP認定1.4%」は、規模を問わない太陽光全体のFIP認定量が太陽光のFIT/FIP認定量に占める割合(資料の表記、出力ベース)で、低圧の支援終了の文脈で使うには母集団が合っていませんでした。また出典として挙げていた「再生可能エネルギー主力電源化小委員会 第5回 資料1」に当該数値は無く、分母も書いていませんでした。2026年10月13日に資源エネルギー庁「FIP制度の活用促進に向けた勉強会」第1回 資料1(2025年9月11日)の値へ差し替え、論法の分類と検証記事の該当箇所を訂正しました(約3%、非住宅太陽光比 約1.5%、分母と出典を明記)。その後の照合で、「1.4%」自体は第77回 再エネ大量導入・次世代電力NW小委員会 資料1 p.24(2025年11月12日)にある2025年3月末の太陽光の値と一致しました。数値そのものは誤りではなく、出典と分母の記載が欠けていた、というのが正確な訂正内容です。上の表に両方の時点を分母つきで載せています。
公開値計算優先給電改定の金額影響
コラムの試算はFIT32円・20MWで年約3,000万円の追加減収(制御率4→7%)。同じ計算を低圧49.5kW・売電10円に置き換えると、年約2万円です(49.5kW×設備利用率17.2%×8,760h×3%×10円≒2.2万円)。優先給電改定の金額影響は大規模FITに集中し、低圧FIT既設にとってはFIP移行の動機になりません。促進策の費用側では、バランシングコスト上乗せ+1.00円/kWhを2024年12月末認定のFIP太陽光・風力(約2.4GW、設備利用率15%/25%)に当てると年約44億円が上限の目安になります(認定≒運転と置いた推定値。政府資料はFIT出力制御増による国民負担減少分の範囲内としています)。
5. 何が問題か
2027年度の地上設置の新規支援終了は、調達価格等算定委員会の意見ではコストデータと入札状況を理由にしており、FIP移行率を根拠にしていません。I-S3 の主張は「FIP実績を根拠に支援を終えた」ではなく、市場統合(FIP)への移行が進んでいない状態で支援を終えれば、移行できる体力のある事業者と、できない小規模事業者の差がそのまま結果になる、です。低圧・小規模の出口は市場統合ではなく、自家消費への転換・継続運転・部材の市場(第1章)と、通信に依存しない局所自律(第4章)にあります。
6. 意見と立場
意見FIPという手段と、低圧に市場統合を求めることについて
FIPは不発の政策です。不発と言う根拠は、政府が自分で置いた目安25%に対して、2年9か月で3%という数字です。しかも移行を進めるために、FIT電源の出力制御を先に回し、FIPにプレミアムを上乗せし、勉強会を開かなければならなかった。自発的には動かなかった制度だということです。
市場統合という方向と、FIPという手段は分けて考えます。その上で、低圧や小規模の電源にまで市場統合を求めること自体が、実物と合っていません。低圧はFIPを選ぶことすらできなかったし、優先給電の改定で動く金額は年2万円の桁です。低圧の出口は自家消費と継続運転であって、市場ではありません。
益田 周防海(株式会社I-S3 代表取締役)
立場双方の利害
I-S3。卒FIT発電所の自家消費転換・継続運転・MLPE化で利益を得る立場で、FIP移行が進まないほど自社の提案に沿う案件が増えます。
三菱総合研究所。2016年以来の出力制御評価サービス、FIP収益のプロファイルリスク分析、併設蓄電池の最適運用シミュレーションを提供しており、FIP移行と確率評価の需要が増えるほど利益を得る立場です(各コラムに自己開示があります)。
未確認確かめられていないこと
- 第66回小委員会 資料3の原本PDF(0.7%・0.1%)は未取得で、勉強会資料の再掲で引きました。
- 併設蓄電池つきFIP転換の収益実績は公開されていません。コラムのシミュレーションも非公開です。
- 2026年度の「一定の条件」で50kW未満がFIPを選んだ実績は未確認です。
7. 出典
- 三菱総合研究所「2027年 再エネが直面する新・優先給電ルール」石田裕之・大谷尚徹、2026年5月13日 https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20260513.html
- 三菱総合研究所「優先給電ルール改定がFIP再エネ事業にもたらす影響」大家直也、2026年4月24日 https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20260424_2.html
- 三菱総合研究所「FIP制度下の再エネ発電の収益を左右する発電プロファイルリスク」大谷尚徹・直井宏樹、2026年9月30日 https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20260930.html
- 三菱総合研究所「動き出した国内蓄電池ビジネス 第3回」伊藤綾子、2024年10月15日 https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20241015.html
- 資源エネルギー庁「FIP制度の活用促進に向けた勉強会」第1回 資料1(2025年9月11日)― 認定実績・目安25%の再掲・促進パッケージ https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/kaitori/dl/fip_sokushin/fip_seminar01_01.pdf
- 第74回 再エネ大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会 資料1(2025年6月3日)― 太陽光の認定容量 https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/pdf/074_01_00.pdf
- 第77回 再エネ大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会 資料1「再生可能エネルギーの主力電源化について」(2025年11月12日)― FIP認定 2025年3月末の電源別値(p.24)、優先給電ルール改定(p.27) https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/pdf/077_01_00.pdf
- 第66回 同小委員会(2024年8月7日)資料3 ― 目安25% https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/066.html
- 調達価格等算定委員会「令和8年度以降の調達価格等に関する意見」(2026年2月5日) 別紙(FIP対象規模) https://www.meti.go.jp/shingikai/santeii/pdf/20260205_1.pdf
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自分の発電所の数字で置き直す
認定年度・出力・パワコンの設置年・売電か自家消費かが分かれば、継続運転・部分更新・MLPE化の論点を整理できます。
益田 周防海(Suomi Masuda Ph.D.)/株式会社I-S3 代表取締役