系統安定・レジリエンスの単位 ― 系統・配電事業か、需要家・ノードか

― 一致点は多い。無いのは一つの論点 ―

三菱総合研究所の系統・分散電源に関する6本の公開文(2023年3月〜2026年10月)を通して読み、I-S3 の公開文(分散型電源時代のレジリエンス、広域接続は広域制御を要求しない、Cyber Blast Radius、系統連系技術要件ガイドライン改定案への意見)と、安定とレジリエンスを担保する単位と手段を同じ範囲で並べます。

執筆: 益田 周防海(Suomi Masuda)/株式会社I-S3 | 公開: 2026年10月16日 | 第4章 | 取り上げる文章: 三菱総合研究所 系統・分散電源 公開文6本(2023-03〜2026-10)

検証 意見と立場 序章・終章へ

1. 取り上げる文章

日付三菱総合研究所の公開文(著者は掲載時の表記)要旨
2023-03-16配電事業への新規参入に向けた論点 中村俊哉・安藤希美・藤田恵配電事業制度で分散化が可能に。DER主体の自立運転にはGFMが必要
2025-06-17インバータ電源増加に伴う系統安定性の課題と対策の方向性 攝待彰久ほかIBR増加で慣性・短絡容量が低下。GFM、第三者からの市場調達、グリッドコードでの義務化検討。「送配電事業者以外の事業者のビジネスチャンス」
2025-08-04系統混雑対策としての分散型エネルギーリソース活用拡大に必要なアクション 向井康太・石月綾音フレキシビリティ市場。DER量確保のインセンティブ設計
2026-09-09【提言】危機の時代のエネルギー自律化(組織名義)自律化は国・地域単位の概念
2026-10-08地域単位での脱炭素への取り組みの意義と課題 久保有加・米田元樹個社単位の限界。地域単位の一体最適化、4つのボトルネック
2026-10-14「電力安定調達」に向けた需要家の統合エネルギー戦略 新冨凌汰・小玉泰聞DRは系統全体の安定化への調整力提供へ。地域単位で柔軟性を使う仕組みへ

I-S3 側の公開文: 分散型電源時代の本当のレジリエンスとは何か、広域接続は広域制御を要求しない、Cyber Blast Radius(モデル・計算を公開、CC BY 4.0)、系統連系技術要件ガイドライン改定案への提出意見(2026年10月8日)。

2. 相手側の主張と、同意できる点

6本を通して読むと、筋道は一貫しています。インバータ電源(IBR)が増えると慣性・短絡容量が減り、系統追従型(GFL)だけでは電圧・周波数を支えられない。対策は設備増強だけでは足りず、同期調相機・STATCOMに加えて系統形成型(GFM)インバータが要る。これらの安定化機能は送配電事業者が自前で持つのではなく、英国のStability PathfinderやStability Marketのように第三者から公募・市場で調達し、OCCTOのグリッドコード検討会で義務化も検討する。分散化は配電事業制度を受け皿に、非常時はエリア内をDERで独立運用し、DER主体の自立運転にはGFMが要る。需要側の柔軟性はDR・エネルギーマネジメントとして束ね、需給調整市場で対価を得る。個社・建物単位では限界があるので地域単位で一体最適化する。自律化は国・地域単位の概念で、これらは市場参加者の事業機会である。

IBR増加で慣性・短絡容量が減ること、GFMが必要なこと、配電事業制度とマイクログリッドが分散化の受け皿であること、グリッドコードが安定化機能を置く場所であること、需要側の柔軟性に価値があること、地域単位の連携が要ること、季節・広域の不足は局所では解けないことは、I-S3 の公開文と同じです。I-S3 は系統運用者による安定化機能の市場調達も否定していません。

食い違いは、安定とレジリエンスを担保する単位と手段にあります。

3. 「安定」と「レジリエンス」の範囲を揃える

三菱総合研究所 6本I-S3 公開文
「安定」の対象周波数・電圧・慣性・短絡容量同左に加えて、通信・制御面を失ったときの挙動と同時に操作され得る容量
「レジリエンス」の対象非常時の独立運用(配電事業エリア・マイクログリッド)、BCP、停電時の事業継続(蓄電池の1文)通信断・認証断・更新失敗・誤指令・サイバー侵害時に危険側へ倒れないこと、重要負荷の限定維持
単位系統全体 → 配電事業エリア → 地域 → 需要家(上から下)需要家・ノード・セル → 隣接 → 広域(下から上)
費用の払い手安定化機能は系統運用者が調達(託送原価)。DERは市場で対価有界な寄与と通信断時の安全側挙動は連系要件(設備側)。GFM・自立運転は需要家が便益に応じて選び、自己負担。義務化はしない

前者の範囲だけで比べると、二つの立場は相手側の枠内で両立します。後者(通信・制御面の喪失、同時操作容量)を含めると、I-S3 の論点が現れます。

4. 相手側の文に無い一つの論点

6本には、低圧パワコン単体の自立運転・停止性能、通信断時の設備の挙動、同一の制御面から同時に操作され得る容量、ファームウェア系統の集中は、いずれも出てきません。「束ねる」は、安定化機能の市場調達、DRの集約、地域単位の一体最適化、いずれも解の側に置かれています。束ねた指令経路そのものが同時誤動作の経路になるという論点は、6本のどこにもありません。

I-S3 の公開文では、分散型電源は物理的に分散していても、制御・認証・監視・更新は一つのクラウド・API・ID基盤に集約されており、設備が増えるほど広域同時障害の可能性が増す、と置いています。公開モデル(Cyber Blast Radius)では、ソフトウェアだけの分散案は集中案と年次リスクが同等で、リスクを下げるのは独立監視の床と、一つのファームウェア系統が到達する容量の上限(約1,350MW、11.5%)です。認証で侵害確率を10分の1にしても、単一の制御面・単一のファームウェア系統を変えない限り、負荷遮断以上の事象の年間確率は同じ桁にとどまります。

5. 物理の安定と経済の最適化を分ける

I-S3 は需要応答を二つに分けます。周波数・電圧のずれという物理の安定は、その場で測り、その場で応える(ガバナ・ドループ・保護)。価格・予測・取引は通信と集約に価値があり、VPP・DERMSの出番はこちらにあります。市場参加は束ねてよい。物理の安定は束ねた指令経路に依存させない。この分け方をすると、相手側の「DRを束ねて調整力市場へ」とI-S3 の「通信に依存しない局所自律」は、対象が違うだけで両立します。

連系要件にI-S3 が求めるのは、一件の侵害で同時に操作され得る容量の上限(または上限値の報告)、遠隔命令で到達し得る最低運転点と変化率制限の有無の確認、通信・制御面を失ったときに危険側へ倒れないことです(系統連系技術要件ガイドライン改定案への意見、2026年10月8日提出。先例として米NERC CIP-002の1,500MW/3,000MW)。GFMや自立運転の義務化は求めていません。 GFM・自立運転は、停電時に何を守りたいかに応じて需要家が選ぶ設備で、I-S3 自身の設計目標(共通DC母線+GFM+意図的単独運転+誤指令の現場拒否をセルとして測ること)は他者への要件ではありません。

配電事業制度は、ライセンス・エリア・事業者の単位で分散化を制度に載せる道で、I-S3 のセルの受け皿になりえます。I-S3 のセルは設備・需要家の単位から積み上げ、境界の電気条件を契約します(IEEE 1547・2030.7・1547.4と重なります)。相手側が地域単位の一体最適化のボトルネックとして挙げる四つ(費用・便益・リスクの不一致、投資時期の不一致、情報の分散、調整役の不足)を、需要家単位で解こうとするのがI-S3 の主張です。対立ではなく、どちらから積むかの違いです。局所自律が届かないところ(地理的平準化、季節、Dunkelflaute、大都市の負荷密度、重工業・データセンタ、洋上風力、長時間貯蔵、多数インバータの干渉安定性、保護協調、DC故障、再同期、ブラックスタートの制度化)はI-S3 自身が列挙しており、相手側の国全体の自律化と補い合う関係にあります。送電増強(OCCTOマスタープラン6〜7兆円、B/C 0.7〜1.5)で「運ぶ能力」を買うか、現場のPV・蓄電池・GFM・単独運転できるセルで「運ばなくても一定時間生きる能力」を買うかは、両方要る局面もあります。

6. 意見と立場

意見安定はその場で、取引は束ねて

周波数と電圧のずれは、その場で測って、その場で応えるのが物理です。ガバナもドループも保護もそうしてきました。価格や予測や取引は通信で束ねる価値がありますが、物理の安定を束ねた指令経路に預けると、その経路が同時誤動作の経路になります。

私が連系要件に求めているのは、一件の侵害で同時に動かせる容量に上限を置くこと、遠隔で下げられる出力の床と変化率の制限があるかを確認すること、通信が切れたときに危険側へ倒れないこと、ここまでです。GFMや自立運転を低圧に義務づけよとは言っていません。停電のときに何を守りたいかは需要家が決めることで、そのための設備も需要家が選べばよい。

束ねた制御面そのものがリスクだという論点は、系統安定の議論にまだ入っていません。入れるべきだと考えています。そもそも、系統全体を一つの対象として最適化しようとする発想自体が問題だと思います。全体を最適にするには全体を一括で動かす経路が要り、その経路が物理の安定を握ることになるからです。安定は現場で、取引は束ねて、で足ります。

益田 周防海(株式会社I-S3 代表取締役)

立場双方の利害

I-S3。MLPE・ローカルEMS・EV充電・自家消費設備の施工事業者で、投資を現場側へ寄せる主張は自社の受注に有利です。

三菱総合研究所。出力制御評価・系統安定化・DERMS等のコンサルティングを行い、系統安定化機能の市場調達を「送配電事業者以外の事業者のビジネスチャンス」と本文で位置づけています。

未確認確かめられていないこと

  • 引いた数値はI-S3 の公開モデル(約1,350MW/11.5%、認証1/10でも同じ桁)とOCCTOマスタープラン(6〜7兆円、B/C 0.7〜1.5)に限ります。後者の原本ページは再確認していません。
  • 「安定化機能の義務化」の対象規模(低圧を含むか)はコラムに書かれていません。
  • GFM低圧パワコンとGFLの価格差の公開値はありません。
  • I-S3 のセル実験は計画段階で、実績ではありません。

7. 出典

  1. 三菱総合研究所「インバータ電源増加に伴う系統安定性の課題と対策の方向性」攝待彰久・阪本将太・森元雄介・志村龍之介、2025年6月17日 https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20250617.html
  2. 三菱総合研究所「海外事例から学ぶ電力システムの分散化 レジリエンス向上等を目的とする配電事業への新規参入に向けた論点」中村俊哉・安藤希美・藤田恵、2023年3月16日 https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20230316.html
  3. 三菱総合研究所「系統混雑対策としての分散型エネルギーリソース活用拡大に必要なアクション」向井康太・石月綾音、2025年8月4日 https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20250804.html
  4. 三菱総合研究所【提言】「危機の時代のエネルギー自律化」2026年9月9日 https://www.mri.co.jp/knowledge/insight/policy/20260909.html
  5. 三菱総合研究所「地域単位での脱炭素への取り組みの意義と課題」久保有加・米田元樹、2026年10月8日 https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20261008.html
  6. 三菱総合研究所「『電力安定調達』に向けた需要家の統合エネルギー戦略」新冨凌汰・小玉泰聞、2026年10月14日 https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20261014.html
  7. NERC Reliability Standard CIP-002-5.1a Attachment 1(1,500MW/3,000MW) https://www.nerc.com/pa/Stand/Reliability%20Standards/CIP-002-5.1a.pdf
  8. I-S3「広域接続は広域制御を要求しない」 https://www.i-s3.com/local-autonomy-first-grid-architecture.html
  9. I-S3「Cyber Blast Radius ― 数千万台のDERをどう接続するか」 https://www.i-s3.com/cyber-resilience-der-blast-radius.html
  10. I-S3「系統連系技術要件ガイドライン改定案への提出意見」2026年10月8日 https://www.i-s3.com/jc-star-pubcomm-submitted-620340012.html

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益田 周防海(Suomi Masuda Ph.D.)/株式会社I-S3 代表取締役