1. 取り上げる文章
| コラム | 三菱総合研究所 ナレッジ・コラム「低圧太陽光の事業集約に向けた市場創出の重要性 変曲点に直面する再エネ事業、長期安定稼働への針路」伊藤綾子氏(新事業開発センター、掲載時の表記)、2026年6月3日 |
|---|---|
| 同社の開示 | 「当社は、シンクタンク・コンサル業界としては珍しく太陽光発電事業に事業参画し…合同会社のアセットマネージャー(AM)として、運営管理業務に携わっている」。自社案件でパワコン故障・落石によるモジュール破損・変圧器油漏れ・鳥獣被害・豪雨土木被害・ケーブル盗難・フェンス破損が起きたと記す |
| I-S3 側の公開文 | FIT後の太陽光はライブ資産、中古パネルFAQ、中古パネル混在アレイの事例、SolarEdge O&M・引継ぎ |
2. コラムの主張と、同意できる点
コラムの筋道はこうです。2027年度以降に地上設置の新規FIT/FIP認定が無くなる方向の中で、既設低圧太陽光を残すには「責任ある主体への事業集約」が要る。集約には、EPC・メーカー・事業者がばらばらな案件を束ねる低圧バルクとセカンダリー市場が要る。理想は個別のデューデリジェンス(DD)だが「対象案件数や費用面を考えると個別の評価は現実的ではない」。そこで同社は画像から設備の状態を評価する解析モデル(特許出願中)を開発中で、市民参加型の画像収集や遠隔監視の発電データと組み合わせ、小規模案件のDD評価・運営管理・保険料率の算定に使うことを想定している。電気主任技術者の配置と定期点検は引き続き必要だ、という内容です。
個別DDが件数・費用から現実的でないこと、既設を廃棄せずに残すべきこと、電気主任技術者の配置と法定点検は引き続き必要なこと、遠隔監視の発電データに価値があることは、I-S3 も同じ考えです。食い違いは一点です。既設低圧を残すために、取得前に状態を評価する仕組みを新たに置く必要があるか。
3. 二つの方法を同じ条件で並べる
対象は「既設・MLPEなし・低圧」に揃えます(売電専用の高圧と新設は外す)。評価の目的を「取得価格の決定」と「発電継続」に分け、時点を「取得時」と「運転期間中」に分けます。
| 取得前の画像・DD評価 | 発電実績で値を決め、取得後に運用で測る | |
|---|---|---|
| 取得価格はどう決まるか | 評価サービスの結果を買い手・保険が参照する | 売り手と買い手が発電実績・書類・目視を見て相対で決める |
| 効く目的 | 保険料率、不適切案件の抑止、案件の選別 | 発電継続、不具合の早期発見、どのモジュールを替えるかの判断 |
| 時点 | 取得時に1回 | 運転期間中ずっと |
| 費用の払い手 | 買い手 → 評価サービスの提供者 | 所有者 → 機器・O&Mの提供者 |
| データが無い案件 | 画像で代替 | 後付けでデータを作る |
取得価格は、発電実績などの数字を見ながら売り手と買い手が相対で決めれば足ります。発電実績は認定情報と売電明細で確認でき、書類と目視で大きな瑕疵は分かります。取得前に専門の評価サービスを一段かませる必要は、I-S3 の実務では出てきませんでした。取得後にMLPEを付けて改善するかどうかは、取得した事業者の努力と裁量の範囲で、取得価格を決める段階とは切り離せます。
公開値費用の桁(低圧1件あたり)
| 取得前DD(赤外線ドローン+IV測定+報告書、1回) | 5.8〜13万円(点検事業者の公開価格) |
| パワコン交換のみ(一式) | 150〜300万円 |
| MLPE後付け(パワコン交換+オプティマイザ+監視、一式) | 150〜300万円(公開実例 96kW: 3.1万円/kW) |
| モジュール1枚の脱落を1年見逃す損失 | 597kWh=卒FIT売電で約6千円、自家消費で約1.2万円 |
| ストリング1本の開放を1年見逃す損失 | 7,165kWh=約7.2万円/約14.7万円 |
| パワコン1台の停止を1年見逃す損失 | 18,472kWh=約18.5万円/約37.8万円 |
取得前の点検の費用はMLPE後付けの2〜9%で、費用は争点になりません。買い手が自分の判断で点検を頼むことに反対する理由もありません。MLPE後付けはパワコン交換と同じ帯にあり、「評価費」として比べるのは費目違いです。パワコンの交換時期に合わせれば追加費用は小さいが、パワコンが新しい案件では有利とは限りません。モジュール1枚の早期発見だけで後付け費用を回収するには、卒FIT売電で数年から十数年かかります。つまりMLPE後付けが成り立つ条件は、パワコン交換時期に合わせること、自家消費側で使うこと、取得価格を保守的に置くことの三つで、無条件には成り立ちません。それを判断するのは取得した事業者です。
4. 取得前の評価で見えるもの、見えないもの
取得前の評価が見ようとしているのは、設備の「状態」です。しかし出力低下の原因のうち、セル割れ・バイパスダイオード故障・PIDは外観に出にくく、画像からどの程度検出できるかは特許の公開前で、公開情報では確かめられません。一方、発電コスト検証ワーキンググループや環境省報告書が置く「パネル劣化0.5%/年」は、米国NRELが約2,000件の研究測定から得た中央値で、元データの約8割はモジュール単体の測定です。運転中の発電所で測れるのは回路単位の出力だけで、モジュール単体の劣化を事業規模で取得する手段はありません。
つまり、取得前にどれだけ評価しても、「どのモジュールが劣化しているか」は出てきません。出てくるのは「この発電所は買ってよいか」です。発電を続けるために要るのは前者で、それは回路を細かく分けて運転しながら測る以外に得られません。取得前の評価は、束ねる側(買い手・保険・集約主体)が案件を選別するための関所として働きますが、動かしながら直す設備にとっては、関所を通った後に同じ測定をもう一度やることになります。
両者は排他ではありません。一次ふるいとしての画像評価と、運転期間中のモジュール単位の監視は、同じ発電所で両方できます。違いは、既設低圧を残す手段の重心をどちらに置くかです。
5. 盗難という「状態」の原因
コラムは、同社が運営管理する発電所で起きた不具合としてケーブル盗難を挙げ、状態把握と保険料率の算定を取得前評価の用途に置いています。盗難は評価や保険で扱う「状態」の一つになっています。ところが、盗難が起きる条件の側は、同じ公的制度の中にあります。
再エネ特措法第9条第6項に基づき、経済産業省は認定した発電事業計画の情報を公表しています。対象は太陽光20kW未満を除く全認定設備で、設備ID、事業者の名称・所在地・電話番号、出力、発電設備の設置場所(代表地番と全地番の2種類のシート)、運転開始日などが都道府県別ファイルとして月1回更新され、誰でもダウンロードできます。2017年の改正法施行以降に始まり、2022年度に項目が拡大されました。エネルギー白書はその目的を「地域が再エネ発電事業の情報を把握するため」としています。一方、地方公共団体にはログインIDを要する別サイト(認定設備情報等)が提供されており、一般公表より詳しい情報(個人事業者の住所・電話、保守点検責任者の連絡先)がそちらで閲覧できます。自治体が把握する手段は、一般公表とは別に存在しています。
金属盗の認知件数は2020年5,478件から2024年20,701件へ約4倍、被害額は約140億円。うち太陽光発電施設の金属ケーブル窃盗は2023年5,361件、2024年7,054件で、茨城・栃木・群馬・千葉の4県で5,907件(警察庁統計)。2025年に成立した金属盗対策法は、買受業者の本人確認・届出、工具の隠匿携帯禁止、官民の防犯情報共有を柱とし、参議院の附帯決議は官民情報プラットフォームの構築を求めました。業界団体のガイドラインは、フェンス・センサー・カメラ・アルミケーブルへの切替えなど、発電所側の防犯対策を列挙しています。
これらの対策の中に、20kW以上の全発電所の地番・出力・連絡先を月次で一般公表している制度の扱いは、確認した範囲(金属盗対策法、国会論議、附帯決議、警察庁の対策、業界ガイドライン、エネルギー白書)では出てきません。盗難に要る情報(どこに、どれだけの規模の、どんな設備があるか)は、犯行側が調べなくても国の公表ファイルに揃っています。これは漏えいではありません。法律に基づいて、意図して、続けている公表です。止めるにも粒度を落とすにも、省令の改正で足ります。取得前の状態評価も保険料率も、この条件を変えません。
6. I-S3 の実績の範囲
I-S3 は、既設のMLPEなし発電所を引き継ぐ(取得・O&M受託・リパワリング受注)とき、発電実績・書類・目視で値を決め、引き継いだ後にMLPEを後付けして運用データで評価する方法を、低圧から高圧まで複数箇所、合計 数MWで実施しています(件数・期間・機種は非公開)。EPC・メーカー混在の低圧バルクを数十〜数百件規模で一括して扱った実績ではありません。中古パネルをMLPE設備に受入れ時の個別検査なしで組み込んだ公開事例は、埼玉県ときがわ町の1件(枚数・容量非公開。保証 出力90%以上、設置後6か月異常なし)です。
7. 意見と立場
意見取得前の評価と、盗まれる条件について
発電所の買い取りの価格設定やDDは、現在の発電実績などの数字を見ながら相対で進めれば良いと思います。発電実績と書類と目視で値を決め、引き継いだらMLPEを後付けして、動かしながらモジュール単位で見ます。これを低圧から高圧まで、合計で数MWやってきました。MLPEなどで改善するのは、取得後の事業者の努力や裁量の範囲です。
モジュール単体の劣化は、実務上取得できないデータです。発電所で見えるのは回路単位の出力だけで、その単位を細かくする以外に「どのモジュールを替えるか」を決める手段はありません。取得前にいくら評価しても、この答えは出てきません。
画像で状態を見る方法を否定はしません。買い手が値を付けるには役に立つでしょう。ただ、発電を続けるために要るのは「どのモジュールを替えるか」で、それは動かしながら測る以外に出てきません。大した効果のない調査に基づくDDは、調査会社を太らせるだけで無意味です。
ケーブル盗難が多発している大きな原因の一つは、経済産業省が発電所の所在地を地番まで一般に公表していることだと考えています。これは漏えいではなく、法律に基づく意図的な公表です。自治体には別の非公開の窓口があるのですから、全地番を誰でも落とせる形で出し続ける必要はありません。盗まれた後の状態を評価して保険料を上げる前に、盗まれる条件を国が自分で作っている事実を正すべきです。
益田 周防海(株式会社I-S3 代表取締役)
立場双方の利害
I-S3。MLPE機器・中古パネル・O&Mを提供しており、取得後の運用に重心を置く方法が主流になれば利益を得る立場です。
三菱総合研究所。太陽光発電事業に参画し、合同会社のアセットマネージャーとして運営管理を行い、画像によるDD評価サービスを想定しており、取得前の評価に重心を置く方法が主流になれば利益を得る立場です(同社コラムに自己開示があります)。
未確認確かめられていないこと
- 画像DDモデルの精度。特許出願の公開は確認できていません。
- 長期安定適格事業者の2026年1月認定3社はコラムの記述によるもので、再確認していません。
- 所在地の公表と盗難の因果関係には公開の実証がありません(警察統計に手口・情報源の内訳はありません)。因果は意見の欄に書きました。
- I-S3 の後付け件数・期間・機種・案件名は非公開です。
8. 出典
- 三菱総合研究所「低圧太陽光の事業集約に向けた市場創出の重要性」伊藤綾子、2026年6月3日 https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20260603.html
- 資源エネルギー庁「再生可能エネルギー 事業計画認定情報」公表用ウェブサイト(再エネ特措法第9条第6項) https://www.fit-portal.go.jp/PublicInfo
- 総務省「太陽光発電設備等の導入に関する調査 結果報告書」(事業計画認定情報公表用ウェブサイトと自治体向け認定設備情報等の記述) https://www.soumu.go.jp/main_content/000937204.pdf
- 資源エネルギー庁 エネルギー白書2024 第3部第3章第1節(認定情報の公表の経緯と目的) https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2024/html/3-3-1.html
- 警察庁 金属盗の認知・検挙状況(令和2〜7年)、太陽光発電施設における金属ケーブル窃盗(令和5・6年)― 群馬県資料に再掲 https://www.pref.gunma.jp/uploaded/attachment/702640.pdf
- 参議院 立法と調査「金属盗対策法案の国会論議」2025年9月29日 https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2025pdf/20250929019.pdf
- I-S3「FIT後の太陽光は『廃棄』ではない」(物理診断よりMLPE実績で足りる理由の節) https://www.i-s3.com/fit-post-live-asset-model.html
- I-S3 事例「中古パネル混在アレイの運用担保」 https://www.i-s3.com/cases/used-panel-repowering-safety.html
引用や要約に誤りがあれば、出典とともに s_masuda@i-s3.com へお知らせください。訂正は日付を付けて本文に残します。引用元の方からの反論は、同じ分量で掲載します。
自分の発電所の数字で置き直す
認定年度・出力・パワコンの設置年・売電か自家消費かが分かれば、継続運転・部分更新・MLPE化の論点を整理できます。
益田 周防海(Suomi Masuda Ph.D.)/株式会社I-S3 代表取締役