三つの「ありません」

IPAから追加照会9問への回答が届きました。法令要件への引用についての見解は「ありません」。ラベルが設置・運用対策を代替しない旨の文書も「ありません」。例外取得のリスト上の区別も「ありません」。そしてIPA自身の申請補足ガイダンスは、例外措置の目的を「ビジネス上の不利益を防止するため」と明記しています。回答はいずれも誠実です。問題は、この性質のラベルが2027年から系統連系の入口要件になることです。一次資料だけで検証します。

執筆: 益田 周防海(Suomi Masuda)/株式会社I-S3 | 公開: 2026年7月25日 | 最終更新: 2026年7月25日 | 読了目安 14分

回答原文(全9問) 解説動画(日英中) 三つの「ありません」 例外ルートの実像 2027年の連系審査 再照会・追加質問

IPA第2回答受領(9問/9問) エネ庁Q1〜Q18回答待ち 2026年7月22日送付の追加照会Q1〜Q9に対し、IPAセキュリティセンターから3日で全問への回答を受領しました(個人名・個人アドレスは非掲載)。Q8のみ意図が伝わらなかったため、本稿末尾の再照会を送付します。資源エネルギー庁への追加確認Q1〜Q18は引き続き回答待ちです。

30秒で分かること

解説動画 — 日・英・中

三つの「ありません」、例外ルートの「ビジネス判断」構造、2027年連系審査の5つの故障点を、日本語・英語・簡体中国語の動画で解説しています。サイト内でそのまま再生できます。

言語タイトルサイト内視聴YouTube
日本語 IPAが3度「ありません」— 2027年系統連系義務化、5つの破綻点 再生 Watch
English "No Such Document" ×3 — Japan's 2027 Grid Mandate Breaks at Five Points 再生 Watch
简体中文 IPA连答三个「没有」— 2027年并网强制要求的五个崩溃点 再生 Watch

要点を60秒に圧縮したショートもあります: 日本語English简体中文

シリーズ全体(公開質問からIPA第2回答分析まで)は再生リスト(エネルギー設備・レジリエンス)にまとめています。

1. 経緯 — 三者照会の現在地

事実経産省への公開質問(2026年6月)から始まった照会は、経産省・資源エネルギー庁・IPAの三者すべてから文書回答を得て、現在は各機関への追加確認の段階にあります。

段階相手結果記録
公開質問(8項目)経産省「対象範囲は弊庁」「制度自体はIPAへ」初回回答
再質問(6項目)資源エネルギー庁RS-485のみ対象外・判断軸「IP通信機能」再回答分析
追加確認(Q1〜Q18)資源エネルギー庁定義・資料存在の確認 — 回答待ち送付文
制度照会(5項目)IPA境界防御非考慮・電力非特化・評価はPCS単体第1回答分析
追加照会(Q1〜Q9)IPA全9問に回答 — 本稿本ページ第2章
再照会(Q8再説明+Q10〜Q13)IPA送付準備完了本ページ第8章

2. IPA第2回答 原文(全9問)

事実以下は2026年7月25日に受領した回答の全文です(質問文は前稿第7章で公開したものと同一。個人名・個人アドレスは当社方針により非掲載、組織名義として扱います)。

Q1.非IP通信機器の「例外的な申請」が認められる「一定の条件」は、「★1申請補足ガイダンス」質問1-3・質問1-4に記載の条件がすべてでしょうか。 ⇒原則的にはその通りです。 ただし、想定していない実装形態がないとは言い切れませんので、その場合は個別に説明いただいて申請可否を判断することはあります。 Q2.「競合製品」の該当性は、どなたが・どの基準で判断されるのでしょうか。 ⇒原則的に、競合製品があることの説明をしていただきます(説明資料を提出いただきます)。 その説明を聞いたうえで判断します。 ただし、明らかに競合製品があるとわかっている場合にはその限りではありません。 Q3.例外的な申請により適合ラベルを取得した製品は、通常の申請による取得製品と、製品リスト上又はラベル表示上で区別されますでしょうか。 ⇒区別はありません。 Q4.一体の製品又はシステムとして取得した場合、評価範囲を第三者(例: 系統連系の審査実務者)が識別する方法はありますでしょうか。 ⇒当該製品の「適合ラベル取得製品情報」の「別添構成図」に、適合ラベルの取得範囲が記載されています。 Q5.「必須付随サービス」の定義又は判断基準が記載された公開文書はありますでしょうか。 ⇒「★1適合基準・評価手法」及び「★1評価ガイド」に記載されています。 Q6.★1が対抗を想定する「最低限の脅威」の類型を列挙した公開文書はありますでしょうか。 ⇒「★1適合基準・評価手法」及び「★1評価ガイド」に記載されています。 Q7.IPAとして、★1適合ラベルの取得を特定用途の法令・技術要件等の適合条件として引用・指定することについての考え方(推奨・中立・留意事項の提示等)を示した公開文書はありますでしょうか。 ⇒ありません。 Q8.適合ラベルを取得した製品が、外部ネットワークから直接到達可能な構成で設置・運用された場合でも、適合ラベルの効力に変更はない、という理解でよろしいでしょうか。 ⇒申し訳ございませんが、質問の意図が理解できません。 どのような意図の質問でしょうか? Q9.JC-STAR適合ラベルが、製品の設置構成・運用・ネットワーク対策(境界防御、VPN、多要素認証、監視等)を代替しない旨を明示した公開文書はありますでしょうか。 ⇒「代替しない」と明示した文書はありませんが、「間接的に置かれる(=内部ネットワークに接続可能)機器」も対象になることは、「★1適合基準・評価手法」及び「★1評価ガイド」に記載されています。 (差出人: IPAセキュリティセンター)

分析送付から3日で全問に個別回答し、9問中7問は質問形式(二値・文書名のみ)に忠実な明確回答です。第1回答と同じく、IPAは自制度の守備範囲を隠さず説明しています。IPAの対応に問題はありません。以下で確定した事実を検証するのは、この守備範囲のラベルを系統連系の必須要件に転用した判断です。

3. 三つの「ありません」— 確定した事実

「ありません」その1 — 法令引用への見解文書(Q7)

事実★1適合ラベルの取得を法令・技術要件の適合条件として引用・指定することについて、IPAの考え方を示した公開文書は存在しません。

分析第1回答と組み合わせると、次の三段がすべてIPA自身の回答で確定します。

  1. ★1は電力・グリッドコード向けに特化して作成されていない(第1回答5)
  2. 境界防御・設置構成はラベルの評価に含まれない(第1回答4)
  3. 法令要件への引用について、IPAは何の見解も示していない(本回答Q7)

つまり、グリッドコードへの★1組込みは、ラベルを設計・運用する機関の関与も見解もないまま、引用する側(資源エネルギー庁)の単独判断で行われていることが一次回答で確定しました。「IPAの制度だから電力要件に適している」という推定は、IPA自身の回答によって成立しません。

「ありません」その2 — 代替しない旨の明示文書(Q9)

事実ラベルが設置構成・運用・ネットワーク対策を代替しない旨を明示した公開文書は存在しません。適合基準本文にある留意書きは「完全・完璧なセキュリティが確保されていることを保証するものではない」という一般的な免責のみで、設置・運用との関係には触れていません(当社で全文確認済み)。

分析2027年以降、連系審査の現場・発電事業者・保守業者の間で「ラベル取得製品を使っているのだから安全」という理解が広がることを防ぐ公式資料は、現時点でゼロです。誤読を招く土壌は制度側に放置されており、要件化を進める行政側が是正材料を作る責任を負います(対案はこの明示を必須要素に含めています)。

「ありません」その3 — 例外取得の区別(Q3)と判断基準(Q2)

事実例外的な申請で取得したラベルは、製品リスト上もラベル表示上も通常取得と区別されません。例外の可否は、申請者が提出する説明資料をIPAが聞いたうえで個別に判断し、公開された判断基準はありません。

分析任意のラベル制度なら、これは通常の運用です。しかし連系の必須要件に転用されると、次の構造が生じます: 連系可否を左右し得る判断(例外の採否)が、非公開の基準で行われ、その結果は下流(連系審査・発電事業者・第三者)から識別も検証もできない。行政手続の透明性が求められる参入要件の判断として、この構造は審査基準・処分基準の公開(行政手続法5条の趣旨)と整合しません。

4. 参考文書を読む — 例外ルートの実像

事実回答で参照された公開文書(★1適合基準・評価手法/★1評価ガイド★1申請補足ガイダンス)を全文確認しました。Q5・Q6の回答どおり、「必須付随サービス」の定義と脅威類型の列挙は実在します。同時に、例外ルートの目的と運用を明文で示す記載を確認しました。

4-1. 例外の目的は「ビジネス上の不利益の防止」(補足ガイダンス質問1-4)

「インターネットとの直接の通信機能(IP通信機能)を持たない製品は、原則としてJC-STARの対象外です。ただし、インターネットとの直接の通信機能(IP通信機能)を持ち、JC-STARの対象となる競合製品が存在する場合には、例外的に適合ラベルの申請を可能とします。(中略)誤認を避ける意味で、前者のケースによるビジネス上の不利益を防止するための例外的措置と位置付け、原則的にはJC-STARの対象外であっても、ビジネス判断で適合ラベルの申請を可能としています。」
(★1申請補足ガイダンス 質問1-4 ガイダンス。強調は引用者)

分析IPAは例外措置の目的を隠していません。これはセキュリティ上の判断ではなく、市場公平性の配慮です。ラベルが任意の販促手段である限り、この設計は合理的です。しかし系統連系の必須要件に転用された瞬間、次の帰結が生じます。

非IP通信機器(エネ庁の画定では要件化対象に含まれ得る)が連系できるかどうかは、「競合製品が存在するか」というセキュリティと無関係な条件と、非公開基準の個別判断に依存する。同じ機器でも、競合が現れれば連系可能になり、競合がなければ原則不可能のまま——系統の保安と何の関係もない変数が、参入可否を決める。

4-2. 第二の例外 — 「ベンダーの判断で」取得可(補足ガイダンス質問1-6)

「インストールできるアプリケーションをIoT製造ベンダーがコントロールしていない製品は、原則としてJC-STARの対象外です。(中略)例外的にIoT製造ベンダーの判断で『本来は対象外だが、対象としてラベル取得してもよい』ということにしています。」
(★1申請補足ガイダンス 質問1-6 ガイダンス。強調は引用者)

分析もう一つの例外ルートでは、取得の可否がベンダー自身の判断に委ねられます。条件は利用者への責任分界の注意喚起(アプリ層はラベルの対象外である旨の明示)のみ。つまり、ラベルが確認する範囲が明示的に狭い製品が存在し、それもQ3の回答どおり、リスト上は通常取得と区別されません。連系審査がラベルの有無だけを確認する設計では、この差は誰にも見えません。

4-3. 型番が市販品と一致しない場合がある(補足ガイダンス質問1-3)

「『通信機能部分(IP通信装置)』を含む形での製品型番が付けられていない場合、適合ラベルを識別するための製品型番(JC-STAR用識別型番)を新たに設定してください(JC-STAR用識別型番は今までの製品型番とは異なる可能性があります)。」
(★1申請補足ガイダンス 質問1-3 ガイダンス。強調は引用者)

分析連系審査で最初に行うのは「設備の型番と適合製品リストの照合」のはずです。しかし制度側は、リスト上の型番が市販型番と異なり得ることを認めています。対応関係の管理はベンダーに委ねられ(「対応関係がわかるようにしておいてください」)、第三者が照合する公開の仕組みは確認できません。照合という審査の第一歩に、構造的な穴があります。

4-4. ラベル発行前の非公開サプライチェーン照会(適合基準1.3節脚注)

「IPAは、ラベル取得の申請に対して、ラベル発行前にサプライチェーン・リスクについて経済産業省を含めた政府関係機関に照会をかけ、その照会結果に基づきラベルを付与する。」
(★1レベル適合基準・評価手法 JST-CR-01-01-2024R1 1.3節 脚注1。強調は引用者)

分析自己適合宣言という技術手続きの内側に、照会の観点・基準・結果がいずれも非公開の政府照会が組み込まれていることが、適合基準本文に明記されています。前稿で認定した審査結果の非対称(各国30社余りが取得・中国主要メーカーはゼロ、当事者は「事実上の排除」と反発)を説明し得る運用装置が、制度の一次文書で確認できたことになります。安全保障上の参入管理が必要なら、対象・基準・根拠を明示した経済安保措置として正面から制度化すべきであり、中立な技術ラベルの体裁の内側で非公開照会が参入結果を左右する現在の構造は、透明性の要請と両立しません。

5. 2027年の連系審査を歩いてみる — 5つの故障点

分析ここまでの確定事実だけを使って、2027年以降の連系審査(低圧〜高圧の太陽光・蓄電池)で審査実務者が「JC-STAR★1取得製品の使用」を確認する手順を再構成します。各段に、一次資料で確認された故障点があります。

  1. 設備リストの型番を適合製品リストと照合する
    故障点リスト上の型番は市販型番と異なる「JC-STAR用識別型番」の場合がある(補足ガイダンス1-3)。対応関係を第三者が確認する公開の仕組みはない。照合の成立自体がベンダーの任意の情報提供に依存する。
  2. ラベルの評価範囲(単体か一体構成か)を確認する
    部分的に可能製品情報ページの「別添構成図」で取得範囲は確認できる(Q4回答)。ただしそれには審査者が構成図を読み、設備の実構成と照合する作業が必要になる——現行要件化案にこの照合の要求は含まれていない(エネ庁Q21で確認中)。
  3. そのラベルが何を確認したものかを理解する
    故障点通常取得か、競合の存在を理由とする例外取得か、ベンダー判断による対象外からの取得かは「区別はありません」(Q3)。ラベルの背後にある判断の種類を、審査者は知り得ない。
  4. ラベルの内容が正しいことを前提にする
    故障点★1は自己適合宣言であり、「適合ラベル交付時に定められた適合基準に適合しているかをIPAは確認しない。つまり、評価の信頼性はベンダーの信頼性に依存する」(適合基準1.1節・明文)。
  5. 設置構成の安全性が確保されたと判断する
    故障点設置構成・ネットワーク対策はラベルの評価対象外(第1回答4)。代替しない旨の明示文書も「ありません」(Q9)。この最終段は、確認ではなく誤読である。そして現行要件化案に、構成・運用を確認する別の要件はない。

帰結: 現行の要件化案が連系審査に与える確認作業は、突き詰めれば「リストに型番があるか」の1点ですが、その照合は型番不一致の穴を持ち、一致してもラベルの種類・信頼性の根拠・設置の安全性のいずれも確認されません。つまり2027年の連系審査は「何も確認しない確認」を全国の実務に義務づけるものになります。確認として機能させるには構成図と実構成の照合が不可避で、それは当社対案(構成図1〜2枚+自己宣言+規模別義務)の確認作業と同じです。同じコストで、系統の保安に直結する情報を確認する設計に改めるべきです。

6. 訂正 — 評価範囲は「構成図」で識別できる。その意味

訂正前稿の空白4で「評価範囲を審査実務で識別できるか」を未確認事項としていました。Q4回答により、識別手段は存在します(製品情報ページの別添構成図)。「識別する方法がない」という趣旨の記述は本稿をもって「ラベル表示単体では判別できず、製品情報ページの構成図参照が必要」に更新します。事実が確認されれば記述を改めるのが本レビューの方針です。

分析同時に、この回答は重要な含意を持ちます。ラベルの評価範囲を正しく扱うために、制度は「第三者が構成図を読む」ことをすでに前提にしているのです。行政側は当社対案への想定反論として「構成図の確認は審査実務に載らない」と主張し得ますが(10観点比較・反論2/4)、その主張は自制度の識別手段と矛盾します。構成図を読めるなら対案は実行可能であり、読めないなら現行案のラベル確認も機能しません。どちらに転んでも、現行案が対案に優位する論拠は消えます。

7. 「質問の意図が理解できません」の意味

事実Q8(ラベル取得製品が外部から直接到達可能な構成で設置・運用された場合でも、ラベルの効力に変更はないか)に対し、IPAは「申し訳ございませんが、質問の意図が理解できません。どのような意図の質問でしょうか?」と回答しました。

分析これは拒否ではなく、誠実な逆質問です。そして、この「理解できません」自体が診断的な意味を持ちます。IPAの制度枠組みでは、ラベルは製品の属性を確認するものであり、設置構成はそもそもラベルの変数に存在しません。だから「設置構成によってラベルの効力が変わるか」という問いは、IPAの枠組みの内側では成立しない問いなのです。

問いが成立しないという事実は、当方の主張——ラベルは設置の安全性について何も語らない——の、制度運用主体による意図せざる確認です。系統連系要件は設置された設備の安全を目的とする以上、その要件の中核に「設置について何も語らない」ことが枠組みレベルで確定しているラベルを置く設計は、目的と手段の不一致を抱えています。意図を明示した再照会を送付し、この点を公式記録として確定させます(次章)。

8. IPAへの再照会・追加質問(全文公開)

照会Q8の意図説明(具体シナリオつき再質問)に加え、参考文書の精読で新たに生じた4問(Q10〜Q13: 識別型番の照合方法・ベンダー判断取得の識別・例外取得の統計・サプライチェーン照会の基準文書)を送付します。いずれもIPAの責任範囲(制度運用)に限定し、制度設計の是非は問いません。

IPAへの再照会 全文

9. 断定すること・断定しないこと

断定すること次の各命題は、一次資料(IPA回答・IPA公開文書)から検証可能な事実として断定します。

断定しないこと次の各命題は断定しません。

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