なぜ「走りながら充電」は鉄道になっていくのか

EVの議論では、ときどき「走りながら充電できれば、バッテリー容量の問題は解決する」という話が出てきます。 道路にコイルを埋め、車両がその上を走るだけで充電される。 あるいは道路に導体を設け、走行中の車両へ電力を供給する。 大型トラックには架線を張り、パンタグラフで給電する。 いずれも、静止して充電する不便さを取り除く未来技術のように語られます。

しかし、I-S3としてEV充電設備、太陽光発電、蓄電池、電力制御、産業用電気設備を扱う立場から見ると、この議論には大きな混同があります。 EVそのものの合理性と、道路を走行時給電インフラに変える合理性は、まったく別の問題です。 バッテリーEVは多くの用途で成立します。 家庭、職場、物流拠点、商業施設、宿泊施設、休憩施設で停止中に充電できるなら、走行中に充電する必要は必ずしもありません。

問題は、EVの欠点を解くために「道路そのものを巨大な充電器にする」という発想が、本当に工学的に合理的かどうかです。 特に一般道路や高速道路全体への無線給電は、未来感は強いものの、電力インフラ、道路維持、車両互換性、交通運用、経済性の面で重い制約を抱えます。 冷静に見ると、多くの走行時給電構想は、道路を劣化版の鉄道に近づけているだけではないか、という疑問が出てきます。

本稿はEVを否定するものではありません。 むしろEVは、適切な充電計画、電力契約、太陽光発電、自家消費、蓄電池、ピーク制御と組み合わせれば、住宅、事業所、物流、地域交通で有効な技術です。 ただし、EVが有効であることと、走行時充電インフラが社会全体で有効であることは分けて考える必要があります。

まず「走行時充電」を分解する

「走行時充電」という言葉は便利ですが、実際にはかなり異なる方式を一括りにしています。 技術的にも、保守の考え方も、成立条件も違います。 少なくとも次の四つは分けて考えるべきです。

  • 架線方式。道路上に架線を張り、トラックやバスがパンタグラフで集電する方式。トロリートラック、eHighwayと呼ばれることがあります。
  • 接触式道路給電。道路面または道路内に導体を設け、車両側のアームや集電装置で接触して電力を受ける方式です。
  • 無線給電道路。道路に送電コイルを埋設し、車両側の受電コイルへ磁界結合で電力を送る方式です。
  • 停車中充電。走行中ではなく、駐車中、荷待ち中、休憩中、乗降中、積み下ろし中に充電する方式です。

このうち、停車中充電はすでに社会実装が進んでいます。 家庭用普通充電、事業所充電、目的地充電、急速充電、物流拠点充電、バス車庫充電、港湾や工場内の待機時間充電は、いずれも「止まっている時間」を使います。 電気設備としても扱いやすい。 充電器、分電盤、受電設備、契約電力、負荷制御、保守責任の境界が比較的明確です。

一方、走行時充電は、道路という公共インフラそのものを電力設備化します。 電線、導体、コイル、変圧器、インバータ、通信、車両認証、課金、絶縁監視、漏電保護、事故時遮断、保守点検、道路工事調整を、交通空間に持ち込むことになります。 ここが本質です。 走行時充電は、単に「充電器の場所を変える」技術ではありません。 道路を電力システムに組み込む技術です。

鉄道はなぜ電化インフラとして成立するのか

道路への走行時給電を考えるとき、避けて通れない比較対象が鉄道です。 鉄道は、すでに一世紀以上にわたり、大電力を走行中の車両へ供給してきました。 架線、第三軌条、変電所、き電線、保護装置、運行管理、保守体系が一体になった完成度の高い電力輸送システムです。

では、なぜ鉄道ではそれが成立するのでしょうか。 答えは、電気技術だけではありません。 鉄道は輸送システムとして、走行時給電に向いた構造を持っているからです。

  • 専用軌道があり、車両の位置と走行経路がほぼ決まっている。
  • 大量の人や貨物を高密度に運ぶため、インフラ利用率が高い。
  • 同じ経路を多数の車両が繰り返し走るため、固定インフラへの投資を回収しやすい。
  • 軌道、信号、架線、変電所を鉄道事業者が一体的に保守できる。
  • 車両規格、集電方式、運行管理、保守ルールが統一されている。
  • 大電力を継続的に使うため、変電所やき電設備の稼働率が高い。

鉄道は、自由移動の道具ではありません。 そのかわり、固定された経路に高密度の輸送需要を集めます。 だから、大きな電力インフラを線路沿いに置く意味があります。 一つの架線、一つの変電所、一つの保守体系を、多数の列車が繰り返し使うからです。

これに対して道路交通は、自由移動を価値にしています。 乗用車、軽貨物、トラック、バス、緊急車両、二輪車、自転車、歩行者が混在し、出発地も目的地も経路もばらばらです。 道路の価値は、線路のように固定された経路を強制しないことにあります。 その道路に走行時給電を持ち込むことは、自由移動システムを部分的に鉄道化する試みです。

ここに根本矛盾があります。 電力インフラは、固定経路、高稼働率、規格統一、集中保守を好みます。 道路交通は、分散経路、低密度利用、不特定多数、自由な車種混在を好みます。 走行時給電は、この二つを無理に重ねようとします。

無線給電道路は「道路を巨大充電器化する」発想である

走行時充電の中で、もっとも未来的に見えるのは無線給電道路です。 道路の下に送電コイルを埋め、車両側の受電コイルへ磁界で電力を送る。 ケーブルもパンタグラフも見えない。 車は普通に走っているだけで充電される。 映像としては非常に魅力的です。

しかし、道路を電気設備として見ると、問題は一気に増えます。 まずコイルを埋設するには道路を掘る必要があります。 舗装、路盤、排水、埋設管、橋梁、伸縮装置、路面温度、凍結、除雪、補修計画と衝突します。 道路は、ただ平らな床ではありません。 雨水を逃がし、荷重を受け、熱で伸縮し、車両荷重でたわみ、冬には凍結防止剤や融雪剤にさらされ、定期的に切削オーバーレイされる土木構造物です。

そこに電力コイル、ケーブル、電力変換装置、通信装置、センサー、絶縁監視を入れると、道路の保守と電気設備の保守が結合します。 舗装を更新したい道路管理者と、コイル位置を維持したい電気設備側の都合が衝突します。 掘削すれば復旧品質が問題になり、補修すれば電気性能が問題になり、故障箇所を特定するにも交通規制が必要になります。

無線給電は、位置ずれにも弱い技術です。 停車中のワイヤレス充電であれば、車両を所定位置に止め、送受電コイルの位置を合わせられます。 しかし走行中は、車線内の横ずれ、車高、タイヤ、積載、サスペンション、速度、車種差が常に変わります。 大型トラックと乗用車では受電コイルの位置も高さも異なります。 位置ずれは送電効率、発熱、漏れ磁界、制御安定性に効きます。

面積利用率の面でも、道路埋設型の無線給電は数学的に不利になりやすい。 駐車場では、駐車区画に対して車両が占める面積割合が高くなります。 車種や区画寸法にもよりますが、駐車スペースでは車体が区画面積の三割から五割程度を占める場面も珍しくありません。 しかも車両はその場所に長く留まります。 送受電コイルの位置も合わせやすく、設備が「車両の下にある時間」を長く取りやすい。

一方、道路では事情が違います。 仮に渋滞時を考えても、車間距離、車線幅、路肩、交差点、合流部、車両長と道路面積の関係により、車両が道路面を覆う割合は駐車区画ほど高くなりにくい。 走行中の車両はその区間に短時間しか存在せず、車両が乗っていない道路面も大きく残ります。 直感的には、道路給電設備の有効利用率は次のような掛け算で考えられます。

有効利用率 ≒ 車両が設備上に存在する時間割合 × 車両が覆う面積割合 × 対応車両率 × 受電効率

この掛け算のうち、時間割合と面積割合が構造的に小さくなりやすいことが問題です。 駐車場、停車場、バス停、物流拠点、車庫のように、車両が長く、高密度に存在する場所へ充電設備を置くほうが、設備稼働率と投資効率の面で素直です。 逆に、走行中の道路へ広くコイルを埋め込むほど、設備の多くは「存在しているが使われていない」状態になりやすい。

さらに、道路利用率の問題があります。 鉄道の線路は、その上を列車が高頻度で通ります。 しかし一般道路の各車線、各区間に埋め込んだコイルは、常に車両が乗っているわけではありません。 交通量には時間帯変動があり、車種もばらばらです。 その区間を通る車両のうち、対応車両が何割あり、そのうち何台が実際に充電を必要とし、どれだけ課金できるのか。 この利用率が低ければ、巨額の埋設設備は待機している時間が長くなります。

待機損失も無視できません。 もちろん現実のシステムでは車両検知や区間制御により、車両がいる部分だけを励磁する設計が考えられます。 それでも、広い道路網に多数の送電区間、電力変換装置、通信装置、センサー、冷却、監視を置く以上、設備全体としての待機電力、点検、故障対応、更新費は消えません。 使っていない道路も、設備としては存在し続けます。

資源効率で見ても、止まっている場所に充電器を置く方が強い

これは利便性だけの問題ではありません。 必要な資源の量で見ても、車両が止まっている場所に充電設備を置くほうが有利です。 道路全体へ給電設備を埋め込むには、銅、アルミ、磁性材料、半導体、電力変換器、ケーブル、通信設備が広い面積に必要になります。 さらに、土木工事、舗装更新、保守人員、検査コストも道路延長に応じて増えます。

走行中給電では、車がいるかどうか分からない道路面にも設備を敷くことになります。 そのため、設備の待機時間や未使用面積が大きくなりやすく、投入した資源に対して実際に給電している時間が短くなります。 これは単なる投資効率ではなく、資源制約、サプライチェーン、保守可能性、脱炭素の実効性にも関わる論点です。 希少な材料や熟練した保守人員を、低利用率の道路面へ広く分散させてよいのか、という問いになります。

これに対して、駐車場、車庫、物流拠点、バス停、荷役場、休憩所のような場所では、車両が確実に滞在します。 滞在時間が長く、充電設備と車両の対応関係も明確で、点検や故障対応も集中しやすい。 同じ銅や半導体、同じ電力変換器を使うなら、車両が長く存在し、実際に使われる確率の高い場所に置くほうが合理的です。 EVを普及させるなら、道路を広く充電器化するより、少ない資源で確実に使われる充電点を増やすほうが工学的には素直です。

もう一つ注意したいのは、未来的に見える技術ほど、実証予算、人材、政策上の関心を引き寄せやすいことです。 研究開発としての価値はあります。 しかし、工学的な成立条件や設備利用率の検証よりも、実証事業としての見栄えやニュース性が先に立つと、限られた予算や技術者が低利用率の構想に長く滞留するおそれがあります。 その間に、停止中充電、物流拠点充電、系統増強、蓄電池、運用改善のような、より確実に効く整備が後回しになるなら、EV普及にとっても損失になり得ます。

不特定車両の問題もあります。 道路は、同一規格の車両だけが走る空間ではありません。 乗用車、配送車、バス、トラック、二輪車、特殊車両、緊急車両、海外メーカー車、古い車両、非対応車両が混在します。 どの車両にどの電力を送るのか。 認証、課金、異物検知、人体安全、電磁界制御、故障車両の扱い、事故時遮断をどうするのか。 これは単なる充電技術ではなく、道路交通全体の認証・課金・安全システムになります。

こうして見ると、無線給電道路は、道路を巨大充電器化しているだけです。 しかも、その充電器は雨ざらしで、車両荷重を受け、掘り返しに弱く、舗装更新と衝突し、不特定多数の車両を相手にし、利用率が読みにくい。 さらに幾何学的にも、駐車区画ほど車両が高密度に覆わない面を、広く充電器化しようとしている。 未来感はあります。 しかし、未来感は投資回収を保証しません。

接触式道路給電は、道路がなぜ鉄道でないかを教えてくれる

接触式道路給電は、無線給電よりも電力伝送としては素直です。 導体に接触して電力を受けるため、理論上は高効率化しやすく、大電力にも向きます。 スウェーデンのeRoadArlandaのように、道路内の給電レールと車両側のアームを用いた実験も行われてきました。

ただし、接触式には接触式の難しさがあります。 道路面または道路内の導体は、車両荷重、摩耗、雨水、泥、砂、雪、氷、融雪剤、塩害、落下物、事故、道路清掃、除雪作業にさらされます。 鉄道のレールは車輪と接触する前提で設計され、軌道として保守されます。 しかし一般道路の路面に、長期にわたり電気的接触を安定させる導体を置くことは、かなり厳しい要求です。

感電対策も重くなります。 当然、車両が通過するときだけ区間的に給電し、通常時は無電圧にする設計が考えられます。 それでも、道路上には歩行者、二輪車、整備員、事故車両、落下物、冠水、動物が存在します。 鉄道の第三軌条や架線は、鉄道用地という管理された空間にあります。 一般道路は、そこまで管理された空間ではありません。

交通事故時の安全性も問題になります。 車両が導体上で停止する。 衝突で集電装置が破損する。 路面が損傷し、導体が露出する。 消防、警察、道路管理者、電気主任技術者、充電インフラ事業者の責任分界をどうするのか。 事故対応の現場で、道路が電力設備でもあることは大きな制約になります。

そして、接触式道路給電は結局、専用レーン化したくなります。 給電装置の位置、速度、車両規格、走行軌跡、保守時間帯、安全管理をそろえるほど、システムは安定します。 しかし専用レーン化し、車両規格をそろえ、運行ルートを固定し、集中的に保守するなら、それは道路の自由度を減らし、鉄道的な構造へ近づけていることになります。

これは接触式道路給電を単純に否定する話ではありません。 むしろ逆です。 接触式は、条件を整えれば成立し得ます。 ただし、その条件を整えるほど、なぜ鉄道が専用軌道を持つのか、なぜ架線や第三軌条が管理空間に置かれているのかが見えてきます。

架線とパンタグラフは比較的合理的である

走行時給電の中で、比較的合理的に見えるのは架線方式です。 これは意外ではありません。 鉄道で長年使われてきた考え方に近いからです。 道路上に架線を張り、大型トラックやバスがパンタグラフで集電する。 SiemensのeHighwayやドイツの高速道路架線実験、スウェーデンの電化道路実験などは、この系統に属します。

架線方式の長所は明確です。 まず、電力伝送が比較的単純です。 道路の中にコイルや導体を埋め込まなくてもよく、設備の存在が目に見えます。 故障箇所の発見、点検、更新、絶縁確認、保守作業も、埋設型より扱いやすい。 大電力を高効率に供給しやすく、トラックのような大型車と相性がよい。

大型トラックでは、バッテリー重量と積載量の関係が重要です。 長距離幹線輸送で巨大なバッテリーを積むと、車両重量、タイヤ摩耗、充電時間、急速充電設備、ピーク電力が問題になります。 幹線の一部で走行中に給電できれば、必要バッテリー容量を減らし、拠点充電の負担を下げられる可能性があります。

物流ルートとの整合性もあります。 乗用車の移動は自由度が高い一方、幹線物流はある程度ルートが固定されます。 港湾、工場、物流センター、高速道路、都市近郊の配送拠点を結ぶルートには、繰り返し需要があります。 高稼働の大型車が同じ区間を何度も走るなら、架線インフラの利用率は上がります。

さらに、架線は「必要な場所だけ電化」しやすい方式です。 全道路を電化するのではなく、上り勾配、港湾アクセス、物流幹線、専用レーン、鉱山の登坂区間など、電力負荷が大きく利用率の高い区間に絞れる。 この発想は、道路全体を巨大充電器にするよりずっと現実的です。

ただし、ここまで来ると、かなり鉄道に近い思想です。 架線、パンタグラフ、固定ルート、高稼働車両、専用または準専用レーン、集中保守、事業者管理。 読者が「それなら鉄道ではないのか」「パンタグラフで済む話ではないのか」と感じるなら、その感覚はかなり正しいと思います。 合理性を突き詰めるほど、走行時給電は鉄道的な条件を欲しがります。

実証事例が示しているのは、万能性ではなく成立条件である

世界各地で道路給電の実証は行われています。 それらは技術的に興味深く、研究として重要です。 ただし、実証があることは、一般道路網全体への普及が合理的であることを意味しません。 むしろ各事例を冷静に見ると、成立条件はかなり偏っています。

Siemens eHighwayとドイツの高速道路架線実験

SiemensのeHighwayは、道路上の架線からトラックへ給電する代表的な構想です。 ドイツでは高速道路や幹線道路で架線トラックの実証が行われ、実運用に近い環境でデータが集められてきました。 この方式は、無線給電道路よりも電力伝送としては素直で、特に大型トラックには一定の合理性があります。

ただし、ここで見えてくるのは、自由移動インフラとしての道路全体ではありません。 見えてくるのは、特定区間を繰り返し走る大型車、一定の物流需要、架線区間への投資、車両側パンタグラフ、保守体制、運行管理の組み合わせです。 これは鉄道電化にかなり近い発想です。

Electreonの無線道路給電

Electreonは、イスラエル、スウェーデン、ドイツなどで無線道路給電の実証を進めてきた企業として知られています。 バス、トラック、シャトルなどを対象に、道路に埋設したコイルから走行中または停車中の車両へ給電する実験が行われています。 無線であるため外観上の負担が少なく、車両が所定ルートを走る公共交通やシャトルでは検証しやすい方式です。

一方で、ここでも条件は固定ルート寄りです。 空港アクセス、港湾シャトル、バス路線、実証区間のように、走る車両と経路を管理できるほど成立しやすい。 逆に、不特定多数の乗用車がどこを走るかわからない一般道路網へ広げるほど、互換性、利用率、保守、課金、道路更新の問題が大きくなります。

Toyota Motor Corporation系の無線給電研究

Toyota Motor Corporationや関連サプライヤー、研究機関でも、停車中および走行中の無線給電に関する研究や検証は行われてきました。 無線給電には、ケーブル接続を不要にし、バッテリー容量を小さくできる可能性があります。 車庫、タクシー乗り場、バス停、物流拠点、信号待ち区間など、停止または低速で位置を管理しやすい場所では、研究する意味があります。

ただし、自動車メーカーが研究していることと、全国の道路を無線給電化することは別です。 自動車メーカーにとっては、将来の選択肢を検証し、標準化や車両側技術を押さえることに意味があります。 しかし、社会インフラとして採算が合うかどうかは、道路管理、電力供給、保守費、対応車両率、課金、事故対応まで含めて判断しなければなりません。

スウェーデンの道路給電実験

スウェーデンでは、接触式、無線式、架線式を含む複数の電化道路実験が行われてきました。 eRoadArlandaのような接触式道路給電、Gotlandでの無線給電、Gävle地域での架線式トラック実験など、方式を比較するうえで重要な事例があります。

これらの実験が示しているのは、方式ごとの可能性だけではありません。 実証区間、対象車両、運行ルート、速度、保守体制、道路環境を管理するほど、システムは成立しやすいという事実です。 つまり、閉鎖空間、固定ルート、高稼働率に近づくほど、走行時給電は現実的になります。

港湾AGV、鉱山ダンプ、工場内搬送

港湾AGV、鉱山ダンプ、工場内搬送車、構内シャトルのような用途では、走行時給電や機会充電が意味を持つことがあります。 これらは一般道路の自由移動とは異なります。 車両の種類が限られ、走行ルートが固定され、稼働率が高く、事業者がインフラと車両を一体で管理できます。

鉱山の大型ダンプでは、登坂区間に架線を設け、パンタグラフで給電するトロリーアシストの考え方があります。 重い荷を積んで長い坂を上る場面では電力需要が大きく、同じルートを大量に往復します。 これは走行時給電が成立しやすい典型です。 ただし、それは道路一般ではなく、鉱山という管理された生産設備の一部です。

なぜ一般乗用車には必要性が薄いのか

一般乗用車に対して、走行時給電の必要性はそれほど大きくありません。 多くの車は一日の大半を止まっています。 家庭、会社、店舗、宿泊施設、駐車場で止まっている時間に充電できれば、走行中に充電する必要は小さくなります。

EVの充電問題は、しばしばガソリン車の給油体験と比較されます。 しかしEVは、必ずしもガソリンスタンドのような集中拠点で短時間に満タンにする必要はありません。 駐車している時間に少しずつ入れることができます。 住宅、事業所、宿泊施設、商業施設、物流拠点に普通充電を配置し、長距離移動には急速充電を補完的に使う。 それで足りる用途は多いのです。

もちろん、集合住宅、街中の駐車場、長距離移動、寒冷地、業務車両では充電課題があります。 しかし、その解決策が道路全体への無線給電であるとは限りません。 既存駐車場の普通充電、事業所充電、目的地充電、充電予約、負荷分散、太陽光連携、蓄電池併設、急速充電の適正配置のほうが、はるかに単純で保守しやすい場合が多い。

走行時給電は、充電時間の心理的不安を解くように見えます。 しかし、設備投資の対象が「車が止まる場所」から「車が通る道路すべて」へ広がるなら、社会全体のコストは大きく増えます。 充電器を必要な駐車場に置くのか。 それとも道路を掘り、コイルや導体を埋め、交通空間全体を電力設備化するのか。 この二つは同じ難易度ではありません。

意味がある限定用途は確かに存在する

ここまで批判的に書いてきましたが、走行時給電に意味がないと言いたいわけではありません。 意味がある用途はあります。 ただし、それはかなり限定されています。

  • 港湾内のAGVやシャトル。閉鎖空間で、ルートが固定され、車両とインフラを同一事業者が管理できる。
  • 鉱山ダンプ。登坂区間の電力需要が大きく、同じルートを高頻度で往復する。
  • 工場内AGVや構内搬送。停止位置、速度、経路、車両規格を管理できる。
  • 専用バスレーン。路線が固定され、停留所や車庫での充電と組み合わせやすい。
  • 幹線物流。大型トラックが特定の高速道路区間を高稼働で繰り返し使う場合、架線方式が検討対象になり得る。

これらに共通するのは、自由移動インフラではないという点です。 いずれも半固定輸送システムです。 ルートが決まり、車両が決まり、運用者が決まり、稼働率が高く、保守責任が明確です。 つまり、鉄道に近い条件を一部持っています。

この領域では、走行時給電は十分に検討する価値があります。 特に大型車、長時間稼働、固定ルート、重負荷、拠点管理がそろう場合、バッテリー容量を減らし、停止時間を減らし、ピーク充電を分散できる可能性があります。 ただし、それは一般道路を全面的に給電化する話とは別です。

結局、問いは「それは鉄道ではないのか」に戻る

走行時給電の合理性を高めようとすると、条件は自然に絞られていきます。 車両を限定する。 ルートを固定する。 専用レーンを作る。 高稼働の大型車に集中する。 保守主体を明確にする。 変電設備を集中配置する。 走行軌跡をそろえる。 課金と認証を事業者単位で管理する。

これは、自由な道路交通から少しずつ離れていく動きです。 そして、鉄道的な条件に近づいていきます。 ならば、読者が「それ、結局パンタグラフでよくないか」「それは鉄道ではないのか」と感じるのは自然です。 もちろん、道路と鉄道は完全に同じではありません。 物流の末端、港湾、工場、鉱山、高速道路幹線には道路でなければならない場面があります。 しかし、走行時給電が本当に意味を持つ領域は、道路の自由度ではなく、鉄道に近い規律を必要とします。

無線給電道路の夢は、「車は自由に走り、道路は黙って電気をくれる」という姿を描きます。 しかし、電力インフラは黙って存在できません。 設計され、保守され、点検され、更新され、事故時に遮断され、課金され、責任分界を持ちます。 道路もまた、舗装され、掘り返され、補修され、冠水し、凍結し、事故を受け、更新されます。 この二つを重ねることは、見た目ほど軽い話ではありません。

EV普及と走行時給電は別問題である

最後に、もう一度整理します。 EVの普及と走行時給電の普及は別問題です。 EVは、停止中充電、拠点充電、目的地充電、急速充電、太陽光発電、蓄電池、負荷制御を組み合わせれば、多くの用途で十分に成立します。 大半の乗用車にとって、道路から常時給電される必要はありません。

一方、走行時給電は万能の未来インフラではありません。 自由移動システムと高密度電力インフラは、本質的に相性がよくありません。 電力インフラは固定経路と高利用率を求め、道路交通は自由度と分散性を求めるからです。

意味がある用途は、高稼働、固定ルート、大型車に偏ります。 港湾、鉱山、工場内AGV、専用バスレーン、幹線物流。 その領域では、走行時給電は研究・実証・実装の価値があります。 ただし、その合理的な姿はしばしば鉄道や架線方式に近づきます。

道路全体を無線給電化する前に、まず問うべきことがあります。 その車両は本当に走りながら充電する必要があるのか。 止まっている時間に充電できないのか。 その道路区間は十分に使われるのか。 誰が保守し、誰が更新し、誰が事故時に責任を持つのか。 そして、それだけ固定化するなら、鉄道や架線方式のほうが素直ではないのか。

研究としての価値と、社会実装の優先順位は分けて考える必要があります。 走行時給電は、条件を絞れば重要な選択肢になり得ます。 ただし、未来感の強さだけで政策資源を長く集める技術になってしまうと、社会全体で見た充電インフラ整備の順番を誤りかねません。

未来技術は、見た目の新しさだけでは社会インフラになりません。 社会インフラになるには、保守でき、更新でき、採算が合い、責任分界が明確で、利用率が高く、故障しても運用できる必要があります。 EV走行時充電の多くは、この条件を満たす場所を選びます。 そして、その場所は思ったより狭い。 だからこそ、EVの未来を考えるなら、走行時給電を万能解として扱うのではなく、停止中充電と限定用途の走行時給電を冷静に分けて設計するべきです。